
近未来の火星。ここには人が長期滞在できる探査基地が整備されている。コンピュータや分析機器はもちろん、宇宙飛行士のための個人スペースまで備えられている。基地内では厚い宇宙服ではなく薄い普段着を着て呼吸し、研究したり、食事したり、眠ることができる。
だが、この基地には問題がある。耐久性が低いのだ。ある日、基地の「エアロック」(外気圧と基地内部気圧を調整する狭い部屋)で突然爆発が起こる。これにより基地の外壁の一部が大きく破損される。これは、2015年公開のアメリカSF映画『オデッセイ』のストーリーの一部だ。
基地で一人で生活していたアメリカの宇宙飛行士マーク・ワトニー(マット・デイモン)は基地の外壁が破れながらも、悪戦苦闘の末に地球に帰還する。『オデッセイ』はハッピーエンドだ。しかし、今後数十年のうちに作られる現実の火星基地で、このような外壁の破損が起これば、状況は絶望的に進展する可能性が高い。
平均マイナス63度の冷たい表面温度と事実上ゼロの酸素濃度、そして地球よりもはるかに強力な放射線を考慮すると、外壁が破壊した場合、基地に滞在する宇宙飛行士に致命的な結果をもたらすことは避けられない。
破損を防ぐための最良の基地建設用材料は何と言ってもセメントだ。固まると石のように硬くなるからだ。問題はロケットに重いセメントの袋を積み、火星に運ぶことが事実上不可能な点にある。運送コストがあまりにも高くついてしまう。
しかし、科学界でこの問題を解決するアイデアが出てきた。地球からセメントを持っていかずにセメントを持っていったかのような効果を出す「奇妙な技術」が登場したのだ。
火星の土壌に不足している「酸化カルシウム」
イタリアのミラノ工科大学の研究チームは先週、国際学術誌『Frontiers in Microbiology』を通じて独特なアイデアの実体を公開した。
研究チームが注目したのは「地面」だ。火星の大地を形成する土壌には驚くべきことに、セメントを作るのに必要な成分がかなり多く含まれている。シリカやアルミナ、酸化鉄、酸化マグネシウムなど、地球で使うセメントと類似した成分が火星の土壌には大量に混ざっているのだ。
しかし、決定的な問題がある。セメントの最も重要な成分である「酸化カルシウム」が火星の土壌には大きく不足している。地球のセメントにおける酸化カルシウムの比率は60〜67%に達するが、火星の土壌には6〜7%しかない。
酸化カルシウムはセメントをしっかり固める役割を果たすため、酸化カルシウムが不足したセメントは適切なセメントとは言えない。例えるなら、お味噌汁を作ろうとして豆腐やわかめ、ねぎなどの具材をたくさん用意したのに、肝心の味噌がほとんど無いような状況だ。
きちんとしたお味噌汁を作りたいのならば、味噌を十分に準備しなければならない。
研究チームは論文で「火星にない酸化カルシウムを得る唯一の方法は、地球から運ぶこと」だけだと説明した。酸化カルシウムは1,400度の高温で石灰石を焼かなければ作れないため、工場のない火星での生産は不可能だ。
しかし、だからといって酸化カルシウムを本当に地球から運ぶことはできない。運送費があまりにも高くつくからだ。世界最低コストで宇宙から貨物を運送できるアメリカの民間宇宙企業スペースXでさえ、火星に1㎏の物体を運ぶのには10万ドル(約1億4,700万円)がかかると見込んでいる。セメント1袋(40㎏)を輸送するのにも60億ウォン(約6億3,246万円)近くかかる計算になる。
微生物が「セメント工場」の役割
研究チームは解決策を地球から特定の微生物を持って火星に持っていくことに見出した。微生物の名前は「スポロサルシナ・パスツレイ」だ。難しい名前を持つこの微生物は炭酸成分を作る。生成された炭酸に火星の土壌のカルシウムを混ぜて「炭酸カルシウム」を作ることが解決策の核心となる。
結果的に炭酸カルシウムで、セメントの主成分である酸化カルシウムを代替することになる。この炭酸カルシウムはサンゴの骨格成分でもある。火星に存在する土壌に地球から持ってきた微生物を接触させて「メイド・イン・マーズ」のラベルが付いたセメントを作る方法を考案したというわけだ。
ただし、今回の研究によって、すぐに火星にセメントの建物を建てられるわけではない。地球よりもはるかに強い放射線が降り注ぐ火星の地表でスポロサルシナ・パスツレイが無事に生き残れるかどうかは、まだ明らかではないからだ。これを解明するには火星現地にスポロサルシナ・パスツレイを実際に送ってみる必要がある。酸化カルシウムの代わりに炭酸カルシウムを使ったセメントが火星基地を長期的に維持するのに十分な強度を持っているかどうかも、さらに探求する必要がある。
しかし、今回のアイデアが火星の地表に頑丈な建物を建てることを現実へと近づけた点は明らかだ。これまで科学界では火星の地上基地をどの材料で作るか苦悩が多かったが、説得力のある解決策が出てきた。地球から宇宙船に積んで持っていける軽量の組み立て式建物よりも、セメントの建物の方が耐久性ではるかに優れているからだ。
研究チームは「火星でのセメントの生産効率を高めるには、製造過程を自動化する必要がある」とし「微生物と土壌を正確な比率で混ぜることができるロボットシステムが必要だ」と述べた。そして「地上車両や無人機などを通じて、火星の土壌に微生物を直接注入する方法も考慮できるだろう」と説明した。













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