
小惑星「ベンヌ」から採取されたサンプルの中から、ブドウ糖(グルコース)と、これまでに確認されたことのない正体不明のゴム状の成分が発見された。
宇宙航空専門メディア「Space.com」は現地時間3日、前日(2日)に国際学術誌「Nature Geoscience」および「Nature Astronomy」に掲載された小惑星「ベンヌ」に関する3本の論文を引用し、この内容を報じた。

これらの研究は、NASAの小惑星探査機「オシリス・レックス」(OSIRIS-REx)が小惑星ベンヌから持ち帰った121.6グラムのサンプルを分析した結果をまとめたものである。探査機は2023年に地球へ帰還し、サンプルは世界各地の研究機関へ送付され、分析が続けられてきた。
最初の論文は、古川善博研究員が率いる東北大学の研究チームによる成果である。チームはベンヌから採取した約0.6グラムのサンプルを分析した結果、RNAを構成するリボースなど6種類の糖類に加え、生物の主要エネルギー源となるブドウ糖やガラクトースが検出されたと発表した。
日本側の研究者らは、ベンヌのサンプルを粉砕し、水と酸に浸して成分を抽出した上で、リボースやブドウ糖など様々な糖類の化学的な痕跡を確認した。これまでに宇宙由来物質の分析は実施されてきたが、生命体形成に不可欠とされる糖類が確認されたのは、今回が初めてのことである。
研究者らが特に着目したのはリボースである。リボースはRNAの骨格を構成する糖であり、遺伝情報の保存やタンパク質合成に関与し、多くの生命活動に必要な化学反応を担う分子だ。専門家らは、DNAよりもRNAが先に形成されたと想定しており、「生命の始まり」に直結する重要な物質とも見なされている。一方で、DNAの骨格となるデオキシリボースは今回検出されなかったという。

2本目の論文では、NASAのエイムズ研究センターとカリフォルニア大学バークレー校の共同研究チームが、ベンヌのサンプルから黒色の樹脂状(ゴム状)の物質を発見したと発表した。このようなポリマー状物質が、宇宙岩石から検出された事例はこれまでにないと説明されている。
カリフォルニア大学のジャック・ゲインスポス氏は、「これまでに目にしたことのない物質だった」とし、「かつては柔軟であったものが、現在は固化した状態に見える」と語った。
研究者らはこの物質について、「窒素と酸素を豊富に含む、複雑に絡み合った分子鎖を形成している」とし、「地球生命の基盤構築に寄与した初期化学物質の前駆体である可能性があり、おそらくベンヌ内部に保存されていた初期の変成物の一つであるかもしれない」と推定している。
3本目の論文は、NASAのジョンソン宇宙センターの研究であり、ベンヌから高濃度の微細な塵が検出されたという内容が報告された。他の宇宙物質と比較して6倍もの塵が確認されており、ベンヌが太陽系初期に「死にゆく恒星の塵」が豊富な領域で形成された可能性を示唆している。
今回の発見が、必ずしも生命体の存在を直接的に示すわけではない。しかし、生命体に不可欠な基本的化学成分が、かつて太陽系全体に広く存在していた可能性を示す結果と言える。













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