3年9カ月に及ぶウクライナの抗戦、最大の危機に

ドナルド・トランプ米大統領が21日、ウクライナに対し「感謝祭(27日)までに和平案を受け入れよ」と圧力を強めたことで、ロシアの侵攻に約3年9カ月にわたり抵抗してきたウクライナは最大の危機に直面している。米国は20日、東部ドンバス全域やクリミア半島など現在の占領地の大半をロシアに譲渡し、北大西洋条約機構(NATO)への加盟を放棄する内容を盛り込んだ28項目の和平案をウクライナに正式に提示した。
ウクライナ国内では、「大国間の妥協によって弱小国が犠牲となる『歴史の悪循環』が繰り返されている」との嘆きが広がっている。核放棄と引き換えに安全保障を約束されたにもかかわらず、ロシアの侵攻によって反故にされた1994年の「ブダペスト覚書」の再来になるのではないかとの見方も出ている。
「武力で獲得した領土」を事実上追認
和平案の核心は、領土調整を定めた第21条にある。2014年に強制的に占領されたクリミア半島はもちろん、ドネツィク州・ルハーンシク州などドンバス地域を「事実上のロシア領土」と認め、現在ウクライナが統制しているドネツィク要塞地域もロシアに統制権を移し、「非武装中立地帯」とする内容である。ヘルソン州とザポリージャ州は現行の前線を基準に戦闘を停止し、分割線を設定し、双方が権利を主張するザポリージャ原発は共同運営とした。結果として、ロシアが第2次世界大戦後、国連を通じて確立された「武力による領土獲得の禁止」という原則を破って占領した地域を、米国および国際社会が事実上追認する形となる。
一方で、ウクライナの安全保障・軍事政策には恒久的な制約が課される。第6条では正規軍の兵力を最大60万人に制限し、戦後に最大125万人まで拡大した兵力をほぼ半減させることを求めている。第7条では、ウクライナ憲法に「NATOに加盟しない」ことを明記し、さらにNATO規約にも「ウクライナは加盟できない」と記載するよう要求している。第8条では「NATO加盟国はウクライナ領土に部隊を駐留させない」と明文化し、英国・フランスが主導してきた「有志連合」による安全保障部隊構想を封じる内容となっている。
トランプ政権はその代わりに「ウクライナにNATO型の安全保障を提供する(第5条および第10条)」と明記した。ロシアが攻撃した場合には「決定的な共同軍事対応」と「対ロ制裁の復活」を約束する一方、ウクライナがロシア本土を攻撃した場合は、その安全保障は失効するとしている。米国はトランプ大統領が議長を務める「平和委員会」を設置して(第27条)これを管理するとともに、その見返りとして一定の「補償」を受けるとしている。
和平案には、ロシアによる周辺国不可侵の誓約(第3条)、ウクライナの欧州連合(EU)加盟(第11条)、復興投資(第12条)やロシア凍結資産の活用(第14条)など、ウクライナ側の要求も一部盛り込まれた。しかし同時に、NATOの追加拡大禁止(第3条)、対ロ制裁の解除と国際経済への復帰(第13条)、ウクライナ国内におけるロシア文化・言語差別の是正(第20条)、100日以内のウクライナ早期大統領選挙(第25条)など、ロシアの既存要求もほぼ受け入れられており、「典型的な不平等条約」との批判が強まっている。
「NATO型安全保障」は信頼できるのか
ウクライナと欧州では、今回の和平案について「ブダペスト覚書の再演だ」との批判が出ている。ウクライナは1994年、当時世界第3位となる約1,700発の核兵器をすべて解体してロシアに引き渡す代わりに、米国・ロシア・英国から「ウクライナの独立・主権・国境を尊重し、武力や威嚇を用いない」との書面保証を得た。
しかし、この約束は当事者であるロシアが2014年にクリミア半島を強制併合し、2022年2月にウクライナへ全面侵攻したことで事実上反故となった。今回も「NATO型安全保障」を掲げているが、ウクライナのNATO加盟が阻止された状態で、NATO型の集団防衛が実際に機能するかは不透明との見方が強い。
国内の安全保障専門家は「ウクライナが攻撃を受けた場合、それをNATO全体への攻撃と見なしてすべての加盟国が軍事的に対応する必要があるということだが、それが実際の行動に結びつくかは誰にも断言できない」と指摘した。米シンクタンク「アメリカ進歩センター(CAP)」は「被害者を罰し、加害者を保護する合意だ」と批判し、「より致命的な次の戦争を招く処方箋だ」と評している。














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