
イスラエル国防軍が改造したD9装甲ブルドーザーは、戦場で「テディベア」と呼ばれながら60トン超の巨体に15トンの追加装甲を纏い、敵弾と爆風をものともせず前線を押し開く怪物だ。全長8メートル、高さ4メートル、幅4.5メートル、405馬力のCat 3408Cディーゼルが家屋を瞬時に押し潰し、市街地でも幅員を拡げる。単なる建機の域を超え、最前線で工兵戦車として歩兵と装甲車を護衛し続ける存在になった。

改造ポイントは徹底的だ。ほぼ無敵の厚装甲に加え、RPGの破壊力を散らすスラットアーマーを装着し、操縦席には多層式防弾ガラスを採用する。2名乗員を守る乗降口と視界窓は最高レベルの防護等級で封鎖。機関銃・榴弾発射器・煙幕弾投射器を車外に設置し、重機ながら自衛火力を備える。70トンを超える推進力と巨大ブレード、分厚いクローラーが組み合わさり、戦車さえ牽引する牽引力と障害物粉砕力を同時に発揮する。

D9の最も象徴的な任務は阻塞突破だ。鉄条網、土嚢、防御壁、地雷原、倒壊した建物、さらには敵機甲部隊の前哨まで豪腕ブレードで薙ぎ払う。市街戦では歩兵が安全に前進できるルートを数分で確保し、敵の隠れ家や地下トンネルを次々に崩落させる。実際、ガザやレバノンの密集市街でD9が現れた瞬間、ゲリラ側が塹壕を放棄する場面が複数記録されている。

攻勢終了後、D9は即座に防御建設へ姿を変える。塹壕掘削、土塁構築、土嚢積みで即席防壁を築き、敵の逆襲を遮断する。破壊された道路や橋を補修し、仮設橋梁を敷設して補給路を再生、歩兵戦闘車や戦車の燃料補給を可能にする。重装甲ゆえ砲撃下でも作業を継続でき、作戦テンポを落とさない点が他工兵車両と一線を画す。

部隊生存率の向上も見逃せない。地雷処理ローラーや爆発物探知装置と連動し、IEDや罠を物理的に踏み潰しながら進むため随伴歩兵の被害を最小化する。2018年に実戦投入された遠隔操作型「D9R Panda」は、複数の監視カメラと電子制御装置を搭載し、乗員を危険地域から隔離したまま同等の作業をこなす。2019年以降はアイアンフィスト能動防御システムも加わり、対戦車弾の直撃リスクをさらに減衰させた。

実戦例は枚挙に暇がない。2008〜2009年のイスラエル・ガザ戦争では100台超のD9が建物粉砕とトンネル封鎖に投入され、作戦の成否を左右した。2014年には対戦車ミサイルで1両が被弾し操縦士が戦死したが、別のD9が即応反撃で敵兵8名を排除。この一連の行動はイスラエル国内で「巨獣の恩讐」と報じられ、兵士の士気を劇的に上げたとされる。

戦術的影響は火力以上に心理面で顕著だ。障害物と共に敵の防御意志を粉砕し、崩れた瓦礫が視界を奪う間に歩兵が突入することで、電撃的な前線突破を実現する。現代の統合作戦では戦闘機や榴弾砲の火力支援と連動し、D9が道を開き、戦車が進み、歩兵が制圧する三位一体が常套手段となった。

もっとも、圧倒的破壊力は常に論争を呼び込む。民家ごと更地にする運用は人権団体から激しい非難を浴び、キャタピラー社へのボイコット運動も続く。それでもイスラエル軍にとってD9は兵士の生命を守り作戦を成功へ導く最後の保険であり、ガザからヨルダン渓谷まで、紛争が続く限り鉄の咆哮は止む気配がない。
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