
日本経済新聞によれば、ソニーグループが日本映画制作の拡大に本格的に乗り出す。
これまでグローバルエンターテインメント企業としてハリウッド大作中心の戦略を展開してきたが、米国映画産業の成長鈍化や日本映画の海外展開可能性を踏まえ、自国作品の制作比率を高める動きに転じている。
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント ジャパン(SPEJ)は、2025年に日本映画8本を制作・配給すると発表。これは同社史上最大規模であり、細田守監督のアニメーション『果てしなきスカーレット』、進藤純照の直木賞受賞作を実写化した『宝島』などがラインアップに含まれる。
この戦略転換を主導するのは、2023年にソニー・インターナショナル・プロダクションズ日本代表に就任した角谷大輔氏。木村拓哉主演の『グランメゾン・パリ』(興行収入40億円突破)など、10本以上のヒット作を手がけた実績を持つ。角谷氏は「興行収入10億円以上を狙えるエンターテインメント性の高い作品を厳選している」と説明した。
背景にはハリウッドの不振がある。2024年の日本国内興行収入上位10作品のうち、外国映画は『インサイド・ヘッド2』と『ミニオンズ』シリーズの2本のみだった。コロナ禍の影響やAI活用をめぐるストライキで供給本数が減少する一方、アニメ人気の高まりにより観客が自国映画に流れた形だ。
ソニーの代表的成功例としては、アニプレックス傘下のミリアゴン・スタジオが制作に関わった『国宝』が挙げられる。歌舞伎の名門家を背景にした本作は興行収入120億円を記録し、日本の実写映画として歴代2位に。制作費は10億円以上を投じた大規模プロジェクトであり、プロデューサーの村田智恵子氏は「技術と資本を惜しみなく投入すれば世界に通じる作品が作れる」と強調した。
日本映画市場は成長を続けている。日本映画製作者連盟によれば、2024年の日本映画国内興行収入は1,558億円で前年比5%増。海外輸出額もストリーミング拡大の追い風を受けて12%増の5億4,000万ドル(約800億3,338万円)となり、過去最高を更新した。
ソニーはヒット作をグループネットワークで海外に広げる戦略も進めている。人気バンドHYの楽曲をテーマにした『366日』のハリウッドリメイク版権をコロンビア・ピクチャーズが取得したのが代表例だ。
競合他社も日本市場に注目。ワーナー・ブラザース・ジャパンは2024年に漫画原作『はたらく細胞』を配給し、60億円超の興行収入を上げた。
自国映画の強さは日本に限った現象ではない。ベトナムでは2024年公開作『Mai』が年間興行1位を記録し、同国映画として初めて興行収入5,000億ドン(約28億1,149万円)を突破。GEMスタンダードの調査によれば、タイやマレーシアなどでも自国映画が上位を占めている。
ソニーグループのドリンCFOは日経の取材に「ミリアゴン・スタジオ作品の好調により収益見通しを上方修正した」と述べた。ただし2025年3月期のセグメント別ROICでは、映画部門が5.7%とゲーム(18.5%)や音楽(10.5%)を大きく下回っており、持続的成長戦略が課題となっている。
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