大腸菌は体内や自然環境に一般的に存在する細菌である。
大半は無害であり、腸内で消化および免疫活動に一定の貢献をする。しかし、ある一部の毒性を有する大腸菌に汚染された食物を摂取すると、健康に脅威となる。特に夏季のように食中毒が頻発する季節には、大腸菌感染による食中毒患者が急増する。では、大腸菌に汚染された食物を摂取した場合、我々の体内ではどのようなことが起こるのだろうか。
◆ 腸を攻撃する毒素
大腸菌の中でも病原性大腸菌は腸粘膜に付着し、毒素を分泌する。代表的な例として腸管出血性大腸菌は、志賀毒素という強力な毒物を放出する。この毒素が腸細胞を破壊することにより、下痢、腹痛、発熱などの症状が始まる。特に、毒素は小腸および大腸の内壁を損傷し、水分と電解質の吸収を妨げる。その結果、患者は激しい水様性下痢と脱水症状を引き起こす。脱水がひどい場合、血圧が急激に低下し、めまいや全身倦怠につながる可能性がある。

◆ 初期症状は軽く見えても
大腸菌食中毒の初期症状は一般的な腸炎と大して異ならず、軽視されがちである。摂取後1日から3日の間に発生し、吐き気、嘔吐、微熱、下痢などが現れる。しかし、腸管出血性大腸菌の場合、症状は急速に悪化し、血便を伴うことが多い。血便は腸内の細胞が直接損傷を受けたことを意味し、患者に大きな不安を与えるとともに、治療が遅れると合併症を伴うリスクが高い。
◆ 子供と高齢者が特に危険
健康な成人であれば、数日の対症療法と十分な水分補給で回復が可能である。しかし、免疫力が低い子供、高齢者、慢性疾患を抱える者の場合は状況が異なる。腸管出血性大腸菌が生成する毒素が血流に吸収されると、全身に広がり臓器の損傷を引き起こす。最も代表的な合併症は溶血性尿毒症症候群である。これは赤血球が破壊され、腎機能が急激に低下する疾患であり、小児患者に特に多い。一度発症すると透析治療が必要なほど危険であるため、早期発見が何よりも重要である。
◆ 抗生剤がかえって害となる場合もある
多くの人が細菌感染と言えば抗生剤を真っ先に思い浮かべるが、腸管出血性大腸菌の場合はこの原則が通用しない。抗生剤を使用すると、細菌がより多くの毒素を分泌し、かえって症状を悪化させる可能性がある。したがって、医師は抗生剤の使用に慎重であり、大半は点滴療法や電解質補給といった保存的治療を優先する。これは患者の体が自ら菌を除去するための時間を稼ぐプロセスである。

◆ 衛生管理が最善の予防策
大腸菌感染を防ぐ最も確実な方法は、徹底した衛生管理である。十分に加熱されていない牛肉パティ、非衛生的に保管された野菜や果物、殺菌されていない牛乳などは主要な感染経路である。食品は必ず十分に加熱し、生で摂取する野菜や果物は流水で綺麗に洗う必要がある。調理場で肉と野菜を同じまな板で使わないことも基本原則である。また、手洗いは感染予防における最も単純かつ確実な方法である。
◆ 重症の場合は臓器損傷も
大腸菌感染は大半の場合数日で改善するが、重症の場合には臓器損傷や生命の脅威につながるため、決して軽く見てはいけない。特に腹痛や下痢が繰り返され、血便、高熱、尿量減少が伴う場合は、ためらうことなく医療機関を受診すべきである。大腸菌感染は単なる腹痛ではなく、時に全身に致命的な痕跡を残す疾患である。
夏季になると繰り返される大腸菌食中毒は、個人の不注意と衛生管理の手抜きから生じる場合が多い。大腸菌に汚染された食品を摂取した際に体内で起こる反応は、単なる消化器症状を超えて深刻な合併症につながり得る。健康を守る第一歩は、小さな習慣の遵守から始まる。手洗い、食材の洗浄、十分な加熱といった基本を徹底することが最も確実な安全網である。
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