
欧米の安全保障当局の間で、中国製電気自動車(EV)を新たな脅威とみなす動きが急速に強まっている。自動運転技術の進化によって車両には多数のセンサーと高性能コンピューターが搭載され、これらが情報機関の観点から見れば移動式盗聴装置へと転化し得るためだ。イスラエルと英国が相次いで講じた措置は、この懸念が既に実務判断の段階へ移行したことを示している。
イスラエルは中国製のチェリー・ティゴ8を将校700人に支給したが、引き渡しと同時に全てのカメラとマイクを無効化した。一見すると形式的な予防措置に見えるが、情報当局の分析はより深刻だった。OS内部のバックドア疑惑、ソフトウェア更新を通じた遠隔操作、通信モジュールからの情報送信など、外部からは確認できない複数の経路が指摘されたのである。撮影装置を切ってもマイクを塞いでも、情報漏洩の危険性は残るという結論に至った。

特にナビゲーションに蓄積されるメタデータは重大なリスクと判断された。700人の将校の移動ルートや集結地点、部隊運用パターンがそのまま中国側に露呈する可能性があり、イスラエル軍の作戦構造が丸見えになることを意味する。加えて、スマートフォンが車両と接続されれば、メッセージや連絡先、通話履歴の一部が車載システムを経由して外部へ漏洩する恐れもあり、内部報告書には現代型電子戦兵器という表現まで登場した。
英国でも同様の事態が発生した。国防省はMG車を公用車として使用していたが、後にその所有構造が問題となった。MGは英国ブランドとして知られるが、実態は中国企業SAICが100パーセント保有するメーカーである。このため車両を廃棄できないまま、省内装備との接続禁止や車内での機密会話禁止と記したステッカーを全ての公用車に貼り付けるという前例のない措置が取られた。さらに中国製部品を搭載する車両には軍事施設半径3.2キロ以内への接近禁止令まで出された。

英国が強硬姿勢に転じた決定的要因は、ドイツ製車両で発見された未確認SIMチップだった。製造元すら把握していなかった通信モジュールの存在が判明し、情報漏洩の可能性が現実的脅威として認識されたことで、英国政府は中国製部品の使用そのものを安全保障問題として扱い始めた。その結果、規制対象はBYDやMGに加え、中国製部品を採用するジャガー・ランドローバー、ボルボ、フォルクスワーゲンの一部モデルへと拡大している。
米国、カナダ、欧州の動きも同調している。米国は中国製EVとスマートフォン連携機能を潜在的情報漏洩ルートとみなし、カナダはEVとスマートフォンの連動をサイバー脅威として100パーセント関税を課した。欧州の研究機関は中国製EVを5Gより危険なトロイの木馬と評価し、バルト三国では既に規制が実施されている。

これらの一連の動きは反中感情の表れではなく、EVエコシステムが標準分離の段階に入りつつあることを示している。冷戦期に放送規格が地域別に分裂したように、自動運転車も安全保障ブロックを軸として二つの生態系に分岐する可能性が高い。
英国国防省が当初中国製EVを採用した理由は価格の安さだけだった。しかし現在、英国は中国以外の代替車両の調達先を模索している。ドイツ車は高価であり、英国には大規模生産基盤が存在しない。この空白を埋めるのはどの国のメーカーかが今後の焦点となる。
さらにEVのみならず、ロボット掃除機、ドローン、家電など幅広い分野で中国製品のセキュリティリスクを警戒する動きが加速しており、世界のサプライチェーンは新たな転換点を迎えつつある。













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