
欧州連合(EU)が、ドナルド・トランプ米大統領との貿易交渉で優位に立つため、報復関税などの「強硬策」に本格的に踏み出す構えを見せている。G7サミット後に送られたEU大使らへのメッセージで、EU欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長の側近であるビョルン・ザイベルト氏は、「強い姿勢こそがアメリカに効く」と明言。関税交渉が停滞している中、アメリカは「来月9日までに妥結しなければ50%関税を課す」と通告し、EU側も黙ってはいられなくなっている。
EUはすでに鉄鋼とアルミニウムに対して50%、自動車には25%の関税を課されており、このまま黙認すれば更なる譲歩を迫られるとの懸念が広がっている。ザイベルト氏はアメリカ製品約950億ユーロ(約16兆649億円)相当に報復関税を課す案を提示し、加盟国の支持を求めたという。さらに、米テクノロジー企業への課税強化や公共調達からの締め出しといった制限措置も視野に入れているとされる。
EU欧州委員会の報道官も「信頼できる報復の『脅し』を持ち続けることが交渉の鍵だ」と語り、圧力の維持が交渉戦略の中核であることを示唆。ドイツのフリードリヒ・メルツ首相も連邦議会の演説で「合意が得られなければ、あらゆる手段を取る準備がある。我々は利益を守れるし、必ず守る」と強調し、EU全体での結束もにじませた。
EU交渉団は、米側がすべての関税を撤廃する可能性は極めて低いと判断し、現実的な落としどころとして鉄鋼や自動車に加え、半導体や医薬品などへの追加関税を段階的に引き下げることを目標に設定。交渉担当官のマティアス・イェルゲンセン氏も「最終的に一部関税が残ることは極めて現実的だ。その前提で準備を進めている」と述べた。
一方のトランプ政権は、今年4月に各国への広範囲な相互関税を発表した後、90日間の猶予を設けて交渉に臨んだが、文書化された正式な貿易協定は英国との1件のみ。スコット・ベッセント財務長官、ジェミソン・グリア通商代表、ハワード・ラトニック商務長官らが中国との2度の会談に臨んだものの、いずれも実質的な成果はなかった。
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