
米国と欧州連合(EU)の貿易合意をめぐり、医薬品分野の関税適用について両者の説明が食い違っており、関係業界を中心に混乱が広がっている。EUのウルズラ・フォン・デア・ライエン欧州委員長は「欧州は医薬品関税の対象外になる」と明言した一方、ドナルド・トランプ米大統領は「医薬品業界は今回の取引とは関係がない」との姿勢を示唆したためだという。
医薬品はEUから米国への最大の輸出品目のひとつとされ、今回の関税措置が業界全体に与える影響は少なくないと見られている。
29日(現地時間)、複数の海外メディアの報道によれば、フォン・デア・ライエン委員長は「我々は15%の関税対象に医薬品を含まないことで合意した」とし、「今後トランプ大統領がどのような決定を下すとしても、それはまた別の問題だ」と述べたという。
一方、トランプ大統領は同日の記者会見で、自動車などに関する一律15%の関税導入を強調する一方で、今後発表予定の医薬品に関する関税は「今回の取引とは無関係」との見解をにじませた。
トランプ大統領は今月初め、米国に輸入される医薬品に対して最大200%の関税を課す可能性があると示唆していた。トランプ政権は現在、医薬品の輸入が国家安全保障に及ぼす影響について、通商拡張法第232条に基づく調査を進めており、8月中にも結果が公表される見通しだという。
医薬品業界からは、今回の米EU合意における医薬品の取り扱いについて、より明確な説明を求める声が相次いでいる。専門家の間では、特定の分野に関税が課されることで合意全体の成立が揺らぐ可能性があると警告している。
仮に医薬品関税が15%にとどまったとしても、欧州の製薬業界およびEU経済全体に与える影響は軽視できないとの指摘もある。医薬品はEUの対米輸出において最も大きな比重を占めており、米調査会社ウルフ・リサーチは、昨年におけるEUから米国への医薬品輸出額が約1,200億ドル(約17兆7,511億8,500万円)にのぼると推計している。
また、ロイター通信によれば、15%の関税が導入された場合、業界全体のコストは年間130億ドル(約1兆9,230億4,500万円)から190億ドル(約2兆8,108億640万円)程度増加するとの分析も出ている。
地政学リスク分析を手がけるユーラシア・グループは報告書の中で「もし医薬品への関税が15%を超える場合、貿易合意自体が危機にさらされる可能性がある」と警鐘を鳴らしている。
医療機器大手フィリップスのロイ・ヤコブスCEOも29日、CNBCのインタビューに応じ、「我々は米国、EU、中国のいずれに対しても関税の免除を強く求めてきた」と述べ、「今のところ発表された取引の中に免除に関する記載は見当たらず、今後さらに協議を続けていく必要がある」と語った。
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