
イーロン・マスク氏率いるニューラリンク(Neuralink)が、失明患者の視覚を部分的に回復させるための次世代人工視覚装置の開発に向けた臨床試験に加わった。
今回の研究は、カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UC Santa Barbara)とスペインの研究チームが主導しており、ニューラリンクは7月末、米国の臨床試験登録サイト「ClinicalTrials.gov」に共同機関として登録された。対象となるのは「スマート・バイオニック・アイ」と呼ばれる装置で、AIアルゴリズムと脳インプラント技術を組み合わせ、顔認識や読書、歩行といった視覚機能の一部を回復させることが目的だ。
研究概要には「ニューラリンクの被験者が確保され次第、使用される予定」と明記されており、同社が開発した脳インプラント装置が実際に使われる可能性が高いとみられている。外部機関と連携した人体対象の臨床試験としては、これがニューラリンクにとって初の公式プロジェクトとなる。
ニューラリンクは現在、「テレパシー(Telepathy)」「ブラインドサイト(Blindsight)」「ディープ(Deep)」の3種類の主力インプラント製品を開発中だ。テレパシーは脳内の信号を読み取り、コンピューターやスマートフォンの操作を可能にする装置で、すでに複数の全身麻痺患者が思考だけでカーソル操作や文字入力を実現している。装置はN1チップ、1,024本の微細電極、ロボット手術機器R1で構成されており、2024年1月に初の移植手術が行われた。
ブラインドサイトは、視神経が損傷した失明者を対象に、視覚皮質を直接刺激して視覚認知を再構築する装置だ。2024年には米FDAから「革新医療機器」に指定されており、今回の臨床試験もこのブラインドサイトとの連携を前提に進められている可能性が高い。
さらに、ディープはパーキンソン病や本態性振戦などの神経疾患に対して設計された治療用インプラントで、従来の脳深部刺激(DBS)装置を上回る精密さとAI補正機能を備えているとされる。
『ブルームバーグ』が報じた投資家向け資料によると、ニューラリンクは今後6年間で米国内に5つの大規模臨床センターを設立し、年間2万件以上の脳手術を実施する計画を掲げている。2031年までに年商10億ドル(約1,484億円)を突破し、感覚の回復だけでなく人間の認知能力拡張までを見据えた「ヒューマン・マシン融合」のビジョンを実現するとしている。
同社は2024年時点で累計13億ドル(約1,929億円)の資金を調達済みで、直近ではさらに6億5,000万ドル(約964億円)の追加出資も受けた。企業評価額はおよそ90億ドル(約1兆3,354億円)に達し、今後の展開に世界中の注目が集まっている。
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