中国、アフリカ・欧州・南米へ「AIシルクロード」構築 ディープシーク衝撃から半年…AIで再興目指す

「人工知能(AI)の中核的資源と能力は少数の国や企業に集中している。技術を独占し、管理・封鎖すれば、AIは一部の国や企業だけのものとなる。AIは人類共通の資産であり、特定の国の専有物となってはならない」──中国の李強首相は、上海で開かれた世界人工知能大会(WAIC)の開会式でこう強調した。
さらに「これまでの発展経験と技術を各国、特にグローバルサウス(南半球の新興国・途上国)の能力強化に活用する用意がある」と述べ、表向きは多国間主義を掲げつつ、米国主導の技術同盟に対抗する「科学技術外交」を鮮明に打ち出した。
◇中国の科学技術外交…主役は「ディープシーク」
中国は自国製AIツールと大規模言語モデル(LLM)を前面に押し出し、科学技術外交を加速させている。その代表がオープンソースAIモデルの「ディープシーク」だ。ChatGPTに匹敵する性能を持ちながら低コストでコードも公開されており、発展途上国を中心に急速に普及した。
中国はこれを通じて技術的信頼を構築し、各国との協力基盤を拡大。米『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』は、欧州・中東・アフリカ・アジアで銀行や大学など多様な利用者が中国製AIを導入していると報じている。
HSBCやスタンダードチャータード銀行は内部でディープシークのテストを開始。サウジアラビアの国営石油会社アラムコも主要データセンターに導入した。米政府がセキュリティ上の懸念から一部の政府機器で使用を禁止する一方、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)など米国の大手クラウド企業も顧客に同モデルを提供している。
インド政府も自国サーバーにディープシークLLMを適用すると発表し、データセンター企業ヨタは自社サーバーで同チャットボットを活用。アフリカ諸国も導入を進め、南アフリカでは華為(ファーウェイ)のクラウドと組み合わせたAIサービスが展開されている。アフリカン・ビジネス誌は「コスト効率の高いディープシークは、社会的・経済的課題解決に寄与する可能性がある」と伝えた。
WSJは「他産業と同様、中国企業は低価格で同等の性能を提供し、顧客を引き付け始めている」とし、「中国AI企業は米国の影響力を弱め、優位性に挑戦している」と指摘した。
◇広がる「デジタルシルクロード」=AIが外交の武器に
AI戦略の中核には「デジタルシルクロード」がある。道路や港湾といった物理インフラを中心とした「一帯一路」を超え、AIやプラットフォーム技術を世界市場に浸透させるサブプロジェクトだ。
代表例が中国独自の「北斗(ベイドウ)衛星測位システム」で、すでに約130カ国で商業・軍事・民間用途に利用されている。米GPSに対抗する形で登場し、2020年から世界規模でのサービスを展開してきた。
監視カメラ大手のハイクビジョンやダーファは世界シェア約40%を握り、80以上の国で利用される。カナダ政府は国家安全保障を理由にハイクビジョンの営業停止を命じた。
アフリカではケニアで華為がAI活用の交通管理システムを提供し、南アフリカではフィンテックを支援。エチオピアではフォーパラダイム(4Paradigm)が水力発電所の保守AIを導入した。
農業や防災でも活用が広がり、中国はアフリカに24の農業実証センターを設置し、300以上の新技術で収穫量を平均30〜60%増やした。気象局は早期警報システム「マズー・アーバン」をジブチとモンゴルに寄贈し、35カ国以上で試験利用が進む。
今年は70以上の「一帯一路」共同実験室が設立され、気候・農業・保健・エネルギー分野で共同研究が推進された。6月、成都での科学技術交流大会では「成都宣言」が採択され、AIや空間情報技術分野での協力強化がうたわれた。
ただ西側の一部では、中国の科学技術外交は単なる技術輸出ではなく、グローバルリーダーシップの確保や政治理念の普及を狙ったものとの見方もある。実際、習近平思想に基づいて訓練されたAIチャットボットが昨年発表され、研究用に活用されている。
AIが「宣伝手段」としても利用され得ることを示す事例であり、中国はLLMやAIツールを新たな「地政学的武器」と位置付け、米国中心の技術秩序への挑戦を鮮明にしている。
注目の記事