
スターリングラードの遺産、いまは徴兵広告の舞台に
第二次世界大戦最大の激戦地だったボルゴグラード(旧スターリングラード)。80年以上を経たいま、この街は再び戦争の影に覆われている。ロシア版フェイスブック「ブコンタクテ(VK)」には「病気があっても、前科があっても、外国人でも応募可能」と書かれた徴兵広告があふれている。
1年の軍務で最大800万ルーブル(約1,470万円)の報酬が提示され、地域の平均年収の10倍に達する。加えて税制優遇、住宅ローン金利の引き下げ、子どもの保育優先枠まで付与される。
「死の経済学」…戦争が生んだ新興中産階級
英紙テレグラフは24日(現地時間)、ロシアの戦時経済が一部地域で新たな中産階級を形成していると報じた。前線に送られた兵士の家族には毎月高額の給与とボーナスが支払われ、軍需産業の工場もフル稼働してブルーカラー労働者の賃金が急騰している。
オックスフォード・エコノミクスのタチアナ・オロバ研究員は「冷戦後に放置されていた産業施設が再稼働し、労働需要が急増した」と指摘した。医療・教育従事者の賃金上昇が40~50%にとどまる一方、金属加工労働者の賃金は過去3年で78%も上昇した。

軍務、「大金」への最短ルート
契約兵の月給は2,000ドル(約29万円)に達し、地域によっては契約金が2万5,000ドル(約368万円)にのぼる。戦死した場合、遺族は最大1,100万ルーブル(約2,000万円)の補償を受け取る。ある地域では官僚が冷蔵庫や農産物、生活用品まで「手土産」として配布している。
ロシアの経済学者ウラジスラフ・イノジェムチェフ氏はこれを「死の経済学(デスノミクス)」と呼び、「かつて社会の落伍者とされた人々が、戦争によって尊敬される階層に変貌した」と評した。

消費と教育の恩恵拡大…「社会階層の流動化」
戦費が流入した地方では消費ブームが起きている。カフェ、美容室、ジムが新たに開業し、国内旅行やホテル産業も活況を呈している。
また、軍人とその家族には大学入学の特別枠が与えられ、地方の若者が競争なしで名門大学に進学するケースも急増している。2023年には1万5,000人がこの制度を利用し、2024年には5万人に達する見込みだ。

「平和到来は社会的災厄」
問題は戦争が終結したときに訪れる。専門家らは、数十万人の従軍経験者とその家族がすぐに貧困層へ逆戻りする可能性を警告する。貯蓄の余裕や社会復帰の基盤が乏しいためである。
イノジェムチェフは「1~2年で貯蓄が底を突けば、1920年代のドイツ退役軍人のように社会不安の火種になりかねない」と懸念を示した。消費ブームの恩恵を受けたブルーカラーや官僚、防衛産業従事者も、戦時経済が解体されれば大きな打撃を受けるとみられる。
プーチン大統領の「戦争の政治学」
ウラジーミル・プーチン露大統領は最近、アラスカでドナルド・トランプ米大統領と会談したが、焦点は平和交渉よりも「経済協力」にあったとの見方が出ている。ロシア産の肥料や核物質の輸出は増加し、米国からの医薬品輸入も急増している。
米シンクタンク、ブルッキングス研究所のロビン・ブルックス研究員は「プーチン大統領は戦争継続によって欧米の分断を狙っている」と分析した。
テレグラフ紙は「戦争は始めるのは容易だが、終わらせるのは難しい」とし、「新興中産階級が戦争継続を望んでいるため、平和はさらに遠のいている」と結んでいる。

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