
ロシアの首都モスクワ中心部の公園に、今夏、波の出る屋外プールが設置された。市民はそこで波に乗りサーフィンを楽しみ、並木道ではテニスなどの球技も行われている。オペラや演劇、一輪車に乗る道化師の芸など、14か所の野外ステージで様々な公演が繰り広げられ、メリーゴーラウンドも回り続けている。サーフィン教室を除いて、すべて無料で提供されており、日焼け止めや飲料水、レインコート、毛布なども無料で配布されている。
米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が30日(現地時間)に伝えたところによれば、「モスクワの夏」と呼ばれるこの祭りは、モスクワ市を巨大なカーニバルに変え、数か月にわたって開催されるという。NYTは、これをウクライナでの戦争からモスクワ市民の注意を逸らすための試みだと指摘している。
ウクライナ戦争によりロシア経済が苦境に立たされていることは周知の事実で、戦費増大に伴う物価上昇が激化し、中央銀行は利上げを余儀なくされ、連邦財政赤字は拡大、国家の緊急災害支援基金も2年以内に枯渇するとの見方もある。しかし、モスクワの街を歩けば、こうした困難は遠い存在のように感じられるとNYTは報じている。
また、戦争が続く中でロシアは外交的に孤立しているように見えるが、多くのロシア国民の生活はむしろ改善していると伝えられている。報道によれば、10年以上にわたる投資により、モスクワは世界でも最も現代的な大都市の一つへと変貌を遂げた。700億ドル(約10兆2,844億円)の予算を持つモスクワ市は、1980年代に衰退していたソ連時代の暗いモスクワとは大きく様変わりしている。
過去10年間で地下鉄は160km延伸され、来月にはさらに4駅が新たに開業する予定であり、2路線の新設も進行中である。また、街には欧州ではなく中東や中国などアジアからの観光客が溢れている。

夏祭り会場では、アロマキャンドルや家具、おもちゃなどロシア製品を販売する政府後援の出店も見られる。赤の広場の隣には、ヤシやオリーブの木々が作り出す「シュールな」オアシスが広がり、今年、モスクワ市は市内の橋に飾るために5,300万本もの花を植えたという。
7月、ロシアの独立系の世論調査機関「レバダセンター」が実施した調査では、回答者の57%が現在の生活に満足していると答え、これはソ連崩壊2年後の1993年に調査が開始されて以来、最高の数値になっている。
ところどころに戦争の痕跡も見られ、地下鉄駅には新兵募集の案内所があり、軍事契約を結べば最大6万5,000ドル(約954万9,783円)が支給されるという広告も掲示されている。NYTはこれを、ロシア人が戦争を傭兵に委ねていることの象徴と指摘している。
このような雰囲気を歓迎しない声もあり、戦争支持の宣伝活動家ウラジーミル・ソロビヨフ氏は最近の自身のトークショーで「本当にどこかで戦争が行われているのか」と疑問を呈し、大都市に出ても戦争の実態を感じられないと怒りを露わにした。また、ロシア軍支持の経済学者ミハイル・モチャロフ氏は「戦時中にこのような祭りが存在するのはあり得ない」と述べ、「これは精神分裂状態だ」と主張した。
一方で、ツアーガイドのアレクサンドル・ウソルツェフ氏は、モスクワでの大規模イベントが人々の「気がかりなニュース」によるストレス解消に役立っていると語り、「人々を落ち着かせ、すべてが正常であることを示す必要がある」と述べた。
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