
中国の習近平国家主席との首脳会談を前に、米国のドナルド・トランプ大統領は貿易交渉の梃子を強化している。同盟国であるオーストラリアとサプライチェーンを拡大し、中国最大の武器である「レアアース」の影響力を弱め、さらに台湾の安全保障問題に再度言及することで、中国からの貿易譲歩を引き出せるか模索している。「素晴らしい合意になる」と強気の姿勢を見せる一方、決裂時には中国に対し超高率関税を課すとちらつかせている。
トランプ大統領は20日(現地時間)、ホワイトハウスでオーストラリアのアンソニー・アルバニージー首相と会談し、レアアースおよび重要鉱物の安定的確保のための協力強化を約束した。両国は今後6か月間で総額30億ドル(約4,554億4,502万円)以上を重要鉱物プロジェクトに共同投資する予定であり、回収可能な資源の価値は530億ドル(約8兆462億円)に上るとホワイトハウスは説明している。
米国はオーストラリアのほか、レアアース埋蔵量の多いベトナムなどとも連携する方針だ。トランプ大統領は「約1年後には、処理しきれないほど多くの重要鉱物とレアアースを確保することになるだろう」と述べた。
この日の協力協定は、世界最大のレアアース輸出国である中国の資源武器化に対抗する狙いがある。スコット・ベッセント米財務長官は15日の記者会見で、中国のレアアース管理を「中国対世界」の構図に位置付け、米国と連携するよう同盟国に呼びかけた。
20日、米通商代表部(USTR)がジェイミソン・グリア代表名義で発表した声明も同様の趣旨であった。14日に中国商務部が、米韓造船協力の中核企業である「ハンファオーシャン」の米国子会社5社を制裁対象に加えたことを非難するために発表した声明において、グリア代表は「中国のグローバルサプライチェーン管理の試みに対抗し、同盟国の対米投資を引き続き奨励する」と述べた。
同日のオーストラリアとの首脳会談の場で、トランプ大統領は中国と台湾間の両岸問題に例外的に触れた。彼は「中国はそのようなこと(台湾侵攻)を望んでいない」と一蹴し、米国の圧倒的な軍事力を判断材料として挙げた。

台湾はこの楽観的な見方を自国支持と捉えたい様子だ。台湾の頼清徳総統は7日に公開された米国ラジオ番組のインタビューで「トランプ大統領が台湾に対する武力行使を永久に放棄するよう習主席を説得すれば、ノーベル平和賞を受賞するだろう」と述べた。
しかし、トランプ大統領にとって、両岸問題における米国の立場は変動しうる対中交渉のカードである可能性が高い。1979年の対中国交正常化以降、米政府は「台湾独立を支持しない」という程度にとどめ、戦略的曖昧さを維持してきたが、トランプ大統領がこれを踏襲するか否かは不透明である。
対中貿易合意に固執するトランプ大統領を見抜いた習主席は、これを利用して「台湾独立反対」へ方向転換するよう説得しようとしている、と先月末に米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じた。20日、元米国務省高官も一部アジアメディアとの懇談会で、この報道の可能性に同意した。
予定通りであれば、米中首脳は今月末、韓国・慶州で開催されるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議を契機に会談する見通しだ。トランプ大統領は当日、ホワイトハウス記者団に対し、近々習主席と「双方が満足する」、「公正で素晴らしく強力な」貿易協定を締結すると予告した。発言の途中で、最終段階にある米韓貿易合意を既成事実化する旨の発言も行った。ただし、「協定が締結されなければ、現在55%の対米関税が11月1日に155%まで引き上げられる可能性がある」という脅しも忘れなかった。
会談の想定議題としては、中国側のレアアース管理解除、大豆輸入、フェンタニル(合成麻薬)の取締りなどと、米国側の関税引き下げ、先端技術管理緩和、台湾独立反対などが挙げられる。中国の交渉カードであるレアアースや大豆の影響力を弱体化させ、関税や台湾など自国のカードを譲歩を引き出すための最大限の手段として活用することが、米国の課題である。
中国との関係において、トランプ大統領がより重視しているのは安全保障よりも貿易合意であるという見方が大多数を占める。トランプ政権2期目の対中外交の主導権が国家安全保障会議(NSC)から財務省へと移ったことがその証左だと、元米務省の高官が当日の懇談会で分析した。
この元高官によれば、マルコ・ルビオ米国務長官やピート・ヘグセス米国防長官など対中タカ派の沈黙も、トランプ大統領の意向によるものであるという。米国家経済会議(NEC)のケビン・ハセット委員長は当日、記者団に対し「トランプ大統領は(米中の)デカップリング、すなわちサプライチェーンの分離が正しい解決策だとは信じていない」と語った。
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