「神のように見えた」元北朝鮮外交官が語る、韓国パスポートの”本当の力”

近年、国際外交の舞台で静かに埋もれていた「大韓民国の国力の実際の重み」が改めて注目されている。その中心にあるのが、元北朝鮮エリート外交官・李一揆(イ・イルギュ)氏の脱北記だ。
海外で北朝鮮政権に忠誠を尽くしてきた彼だったが、ある日突然、自身と家族が根拠のない批判と監視の対象になった。生活に亀裂が入るのを感じたという。職場での圧力が極限に達したとき、彼はついに決断した。――家族を連れて脱出しよう、と。
脱北準備は瞬く間に進んだ。彼は以前更新しておいた新しいパスポートを思い出し、わずか1週間で亡命計画を完成させた。問題は、家族を説得し、監視網を突破し、国境を越えることだった。
早朝5時発の便を予約した彼は、荷物を運ぶ瞬間まで北朝鮮情報員の目を避け続けた。だが、最大の難関は空港で訪れる。新しいパスポートの記録がシステムに反映されていないという理由で、妻と子どもが拘束されたのだ。このままでは空港から即座に北朝鮮へ送還される――致命的な状況だった。
彼自身はなんとか名前確認を通過したものの、到着先の国ではさらなる絶望が待っていた。現地当局が政治的理由を挙げて難民申請を拒否し、彼と家族を北朝鮮へ送還しようとしたのである。これは事実上の死刑宣告に等しかった。

その瞬間、現場は阿鼻叫喚と化した。妻と子どもは強制的に引きずられ、彼は必死に抵抗する。もみ合いが起きる中、周囲の視線は冷たく冷え切っていった。誰も助けてくれない。北朝鮮へ連れ戻されるカウントダウンだけが、刻々と進んでいった。
そのとき、静かに、しかし圧倒的な存在感を放つ人物が現れた。大韓民国大使だった。
状況を正確に把握した大使は、短く一文だけ告げた。
「この人は我々の憲法に基づく大韓民国国民だ。大韓民国が保護する」
この言葉が、戦場を一瞬で凍りつかせた。彼を制止していた現地関係者たちは瞬く間に後退し、妻と子どもを掴んでいた手も、静かに離れていった。
元北朝鮮外交官が最も衝撃を受けたのは、まさにこの瞬間だったという。彼は後に語った。「大使が神のように見えた」と。誰も止められなかった状況が、たった一言で覆ったからだ。
そのとき彼は初めて悟った。大韓民国パスポートが持つ本当の力を。どこへ行っても守ってくれる国があるという事実を。
北朝鮮での人生とは正反対の世界だった。抑圧と疑念と恐怖の中で生きてきた彼が、初めて触れた「国家の意志」というものに、打ちのめされたのである。
その後、彼は韓国大使館の保護下で亡命手続きを踏み、新たな人生を始めた。最も印象深かったのは、大使館の揺るぎない態度だったという。見返りを求めず自分たちを守り、ただの一度もブレることなく盾となってくれた。韓国政府の動きは迅速かつ断固としており、何よりも家族の生命と自由を最優先した。
彼はこの過程で、世界がどれほど違うかを痛感した。北朝鮮体制では人の命が政権維持の道具だったのに対し、大韓民国では国民の生命のために国家が動く。その違いは、あまりにも大きかった。
この事件は、海外の外交界でも象徴的な出来事として語り継がれている。国力とは軍事力や経済力だけではなく、国民を最後まで守り抜く国家の意志と信頼こそが本当の力である――そう証明した事例として記録されているのだ。
かつて北朝鮮で忠誠の象徴と呼ばれた外交官が、大韓民国のたった一言で命を救われ、その一場面で人生が丸ごと変わった。
今でも彼は語る。「自分が韓国国民であるという事実が、これほど重く、そして頼もしいとは知らなかった」と。
彼が感じた衝撃は、ひとえに大韓民国という国家が持つ実体的な力から生まれたものだった。
この劇的な脱出劇が語るのは、結局ひとつの真実だ。国家は守るべき国民がいるとき、強くなる。そして大韓民国は、その責任を実際に果たす国なのだということ。
彼の脱北成功は勇気の結果でもあったが、最後の瞬間を変えたのは、紛れもなく大韓民国の存在そのものだった。














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