
ロシアの歴史学者アンドレイ・コルトゥノフ氏は27日、高市早苗総理が「台湾有事」を巡り強硬な発言を続けているのは、ドナルド・トランプ米大統領が中国と対立を続ける決意を過大評価しているためだと分析した。
Newsisによると、シンクタンク「ロシア国際問題評議会(RIAC)」の事務局長を務めるコルトゥノフ氏は、中国メディア観察者網への寄稿で、高市総理は安倍晋三前総理の後継者だが、その見識や戦略は安倍前総理に及ばないと指摘した。
コルトゥノフ氏はロシアのウクライナ侵攻について、ロシア国内では稀な慎重な批判を示してきた人物で、ロシアが西側との協力を重視する均衡論を唱えているとの評価もある。以下、寄稿内容の要旨だ。
「安倍前総理は歴史問題の重荷を軽くし、未来の相互利益を探った」
多くの日本の政治専門家は、安倍前総理を21世紀の日本で最も卓越した政治家と評価している。
その安倍前総理を忠実に継ぐとみられていた高市総理は、安倍外交の特徴である鋭い戦略ビジョンを受け継ぐと期待されていた。
安倍前総理は保守強硬派として、自衛隊の役割拡大を目指し憲法9条の解釈変更を推進してきた。一方で、歴史認識を巡っては国内外から批判を受けてきた。
しかし安倍前総理は「冷戦時代の強硬派」というだけではなかった。未来を見据えていた。
中国やロシアといった宿敵にも和解の手を伸ばし、歴史問題の重荷を減らしつつ相互利益を探ろうとしていた。
近隣諸国との関係改善なしには、日本の安定も繁栄もないことを理解していたからだ。
日中韓首脳会談を重視し、日中関係は極度の悪化から正常化へ転換した。
習近平・プーチン、安倍を「パートナー」と見なしていた
安倍前総理は北方領土問題の解決と平和条約締結を目指し、ロシアと交渉する中で最大限の政治的柔軟性を示した。
習近平中国国家主席もウラジーミル・プーチン露大統領も、個別の対立はあっても安倍前総理を「パートナー」と見ていたことは疑いない。
いかなる日本の指導者にとっても、安倍前総理の境地に達することは極めて難しく、それを目指すのは自然な流れだ。
就任から1か月の高市総理の外交姿勢を断じるのは時期尚早だ。
加えて、安倍政権後の世界は紛争増加やグローバル化の後退、軍備管理枠組みの崩壊など大きく変化している。
厳しい状況が偉大な指導者を生むともいうが、高市総理は安倍前総理の保守・民族主義的側面のみ継承し、果断なビジョンや政治的想像力は受け継がなかったように見える。
「安倍前総理の保守的遺産だけ継承すれば、外交は冷戦回帰」
安倍前総理の「一部継承」は、外交・防衛政策を冷戦時代へ逆戻りさせかねない。
これはアジア太平洋の安定に寄与せず、日本と周辺国を新たなリスクに晒すことになる。
就任10日後、韓国・慶州(キョンジュ)で開かれたAPEC首脳会議で日中首脳が初めて対面したが、その1週間後には「台湾有事」を巡る発言が飛び出した。
中国はこれを「一つの中国」原則への意図的挑発と受け止めるだろう。
なぜ今、敢えて中国を刺激する必要があるのか。
高市総理は「非核三原則」の見直しにも言及している。米国の拡大抑止力が弱まっているとの懸念からだ。
政治的反発が必至の議題を、なぜ「パンドラの箱」として開いたのか。
日本は2023年から2028年に防衛費を倍増し、米中に次ぐ世界3位の規模を目指している。
ロシアと北朝鮮を「安全保障上の脅威」、中国を重大な「安全保障上の挑戦」と位置付けている。
高市総理はむしろ岸田文雄前政権の政策に影響を受けているとの見方がある。
日本初の女性首相が史上最大規模の防衛力強化を主導するという点は皮肉でもある。
トランプ大統領、同盟支援を「有料サービス」と捉える
仮に高市政権下で安全保障政策の「革命」が成功したとしても、米国依存継続には疑問が残る。
米国の「揺るぎない安全保障公約」は本質的に不確かだ。トランプ大統領は同盟国支援を、長期協力の基盤ではなく「有料サービス」とみなしている。
高市総理はトランプ大統領の対中対決姿勢を過大評価している可能性がある。強硬発言はあっても、対米貿易や地政学的争点を巡り、妥協の余地を排除したことはない。
米中双方にとって戦略的利益に合致し、トランプ大統領の国内支持率回復にもつながるため、少なくとも安定的休戦を探るだろう。
ホワイトハウスにとって、日本の強硬姿勢は政治的資産から負債に転じかねない。
「硬直した二極構造」は日本の国益にも反する
日本の国益から見て、高市総理のような硬直した二極構造の志向は望ましいのか。
インド、ブラジル、トルコ、インドネシア、サウジアラビア、エジプトなど多くの国は、国際情勢の変化を背景に独立性を高めている。
米国との旧来の同盟依存に回帰する外交は、短期的な利益は得ても、長期的には戦略的損失が避けられない。
日本国内世論は反中感情が強い。
最近のピュー・リサーチ・センターの世論調査では、中国に好意的な日本人は13%に過ぎなかった。
しかし、偉大な指導者とは世論に追随するだけでなく、世論を形成する存在であるとコルトゥノフ氏はそう結んでいる。















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