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「経済は豊かでも防衛は最弱」…ロシア侵攻なら“最初の標的”だと専門家が指摘する国とは?

竹内智子 アクセス  

 引用:BBC
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ウクライナに侵攻したロシアが他の欧州諸国を狙うのではないかとの懸念が高まるなか、島国アイルランドがロシアの狙う「急所」として浮上していると、英紙「フィナンシャル・タイムズ(FT)」が最近伝えた。北大西洋の最西端という地政学的な要衝でありながら、経済水準に比べて国防・安全保障態勢が極めて手薄なため、ロシアにとっての「弱い環」になりかねないという見方だ。欧州連合(EU)加盟国でありながら北大西洋条約機構(NATO)への加盟を拒み、「平和中立路線」を掲げてきたアイルランドに対しても、見直しを求める声が出始めている。

FTは「最近、ロシアの偵察船がアイルランド近海に現れたことで、アイルランドをめぐる懸念が一段と高まった」と報じた。ロシアの深海偵察船がアイルランド沿岸の海底ケーブル付近で活動した形跡が複数回確認されており、欧州の安全保障専門家の間では「ロシアが欧州侵攻に踏み出す場合、アイルランドが最初の標的になりうる」という指摘も出ているという。

記事によれば、具体的なシナリオも想定されている。北極海への進出拠点であるムルマンスク基地を出たロシア艦艇が、アイスランドと英国沖を経てアイルランド近海に接近するという構図だ。これまではロシアと国境を接するフィンランドやエストニア、ラトビアなどで軍事的緊張が高まってきたが、アイルランドが「海からの侵攻」の足がかりになりかねないとの懸念が強まっている。欧州全域の通信インフラを支える海底ケーブルの約75%がアイルランド周辺海域を通過していることも、危機論を後押ししている。ロシアによる攻撃でインターネットや金融、物流、航空システムなど各国の通信網が一気に麻痺する事態も想定されるためだ。

こうしたなかで問題視されているのが、アイルランドの緩い安全保障態勢である。第二次世界大戦中も中立を貫いたアイルランドは、一貫して軍事的中立と平和主義を掲げ、NATOには加盟してこなかった。歴代政権は「紛争が起きた際、いずれの陣営にも与しないことが、国民多数が共有するアイデンティティだ」と説明してきた。一方で、NATOと欧州・旧ソ連諸国の協力枠組みである「平和のためのパートナーシップ」には、スイスやオーストリア、セルビアなどとともに参加している。

引用:BBC
引用:BBC

かつては欧州でも有数の貧しい国とされていたアイルランドだが、欧州と米国を結ぶ地政学的な位置を生かして積極的に外資を呼び込み、経済拠点として台頭した。世界的なIT企業や製薬大手が相次いで拠点を構え、1人当たり国内総生産(GDP)は10万ドル(約1,556万円)を大きく上回る水準に達している。しかし、国防力や安全保障インフラは、その経済規模にまったく見合っていない。陸海空を合わせた正規軍はおよそ9,100人にとどまる。島国であるにもかかわらず海軍力も脆弱で、保有する艦艇は8隻程度、その半数は稼働不能とされる。十分な海上レーダーすら整備されておらず、周辺国から警戒情報が寄せられても、自前の対応が難しい状況だと指摘されている。このため、歴史的に複雑な関係を抱えてきた英国をはじめ、周辺国の監視・防衛体制に依存せざるを得ない構図が続いている。

FTは「アイルランドは海底ケーブルの一大ハブであり、米欧を結ぶ戦略的な位置を背景に経済的な果実を享受してきたにもかかわらず、その海底ケーブルを守るための国防・安保投資には極めて消極的だ」と批判し、「潤沢な財源を持ちながら、この状況に甘んじていることが失望を深めている」と論評した。アイルランドの国防費は昨年時点でGDP比約0.24%と、EU加盟国の平均(約2%)を大きく下回り、加盟国の中で最も低い水準にとどまっている。

中立を掲げてきた他の欧州諸国が、ロシアのウクライナ侵攻を受けて安全保障の強化にかじを切っている点も、アイルランドの姿勢と対照的だ。アイルランドと同様にEUには加盟しながらNATOには加盟していないオーストリアの場合、陸軍・空軍・特殊部隊を合わせた平時の正規兵力は約1万4,000人に上り、戦時動員を含めると総兵力は4万7,000人規模に達する。志願制のアイルランドと異なり、徴兵制を維持していることも特徴だ。

EU・NATOいずれにも属していないスイスも、防衛協力を通じてEUとの連携を強めている。外部同盟には距離を置きつつ、「中立を守りながら自国防衛には積極的に取り組んでいる」と評価されており、アイルランドとの違いが際立つ。こうした状況を踏まえ、欧州政界では「アイルランドが中立国の地位を維持したいのであれば、自ら防衛費を引き上げ、自国インフラを守れるだけの国防力を備えるべきだ」との指摘が強まっている。

アイルランド国内からも「安全保障のフリーライドを終わらせるべきだ」という声が聞かれるようになった。オシアン・スミス前環境・気候・通信副大臣は「私たちは無から出発し、今では守るべき資産が多い。もはや他国の善意に頼るわけにはいかない」と述べ、安全保障政策の転換を訴えた。国防副大臣を務めたジェニファー・キャロル・マクニール保健相も「中立国だからこそ国防費を削るのではなく、むしろ増やすのが筋だが、現状はそうなっていない」と苦言を呈している。来年下半期にはアイルランドがEU議長国を務める予定であることから、この機会に防衛費の増額など軍備増強へ踏み出すのではないかとの見方も出ている。

竹内智子
takeuchit@kangnamtimes.jp

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