
メキシコが韓国や中国など自由貿易協定(FTA)を結んでいない国を対象に、自動車部品や繊維といった現地当局が「戦略品目」に指定した輸入品の関税を引き上げる方針を打ち出した。背景として、国内産業の保護・育成を掲げる保護主義的な論理を前面に出している。
自由貿易を基盤とする世界の通商秩序を揺さぶってきたトランプ米政権の戦略とも重なる。ただ、世界最大の経済大国である米国とは異なり、隣国の米国との結びつきを梃子に経済力を高めてきたメキシコの事情を踏まえると、無理のある判断だとの批判は避けにくい。
メキシコ上院は現地時間11日、一般輸出入税法(LIGIE)改正案が両院を通過したことを受け、大統領署名や発効など今後の手続きに向けて行政府へ送付したと発表した。
改正案は、17の戦略分野で自動車部品、鉄鋼・アルミニウム、プラスチック、家電、繊維など1,463品目を選定し、5~50%の関税を課すことを柱とする。来年1月からの施行が見込まれている。
対象は、メキシコとFTAを締結していない国からの輸入品で、韓国のほか中国、インド、ベトナム、タイ、インドネシア、台湾、アラブ首長国連邦(UAE)、南アフリカなどが含まれる。一方、米国、カナダ、欧州連合(EU)、日本、チリ、パナマ、ウルグアイなど、メキシコとFTAを結ぶ国への影響は限定的とされる。
最も大きな影響を受けるとみられるのは中国だ。中国は昨年だけで対メキシコ貿易で1,200億ドル(約18兆6,800億円相当)の黒字を計上した。
韓国もメキシコを主要な輸出先の一つとしてきた。メキシコ中央銀行と経済省が関連情報をオンラインで公開するようになった1,993年以降、韓国は対メキシコで貿易黒字を維持している。今年は第3四半期までに輸出が輸入を120億9,800万ドル(約1兆8,800億円相当)上回った。
メキシコ側は、インドやベトナムなど他の対象国との取引でも輸入超過になっている点を挙げ、関税政策は国内産業の保護と育成のためだと強調している。シェインバウム大統領は定例会見で、改正案は特定国を狙ったものではなく「メキシコと貿易協定を結んでいない国」が対象だと説明し、「メキシコ国内でより多くの製品を生産するという計画に基づく措置だ」と述べた。さらに「韓国や中国と協力していく意思は変わらない。韓国などとの協議を通じ、関税率を一部引き下げた」とも語った。
もっとも、「自国の生産力強化」や「先に関税をかけ、後で協議して調整する」という進め方は、トランプ政権下で推進された関税政策と似通う。加えて、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の履行状況の点検を控え、再交渉の可能性まで取り沙汰されるなか、メキシコはこれまで米国の関税には批判的な立場を示しつつ、経済圏に基づく「自由な貿易の必要性」を訴えてきた経緯がある。こうした事情を踏まえると、シェインバウム大統領の説明は説得力を欠くとの見方も出ている。
また、内需が厚い米国と比べ、関税引き上げによるインフレや潜在成長率の下振れに耐え得る「基礎体力」を備えているのかという点でも懸念が残る。関税障壁を築いた後、国内産業を実際に競争力のある水準まで引き上げられるのかについても、疑問視する声があるという。現地紙レフォルマは、法案審議の過程で野党議員がこうした点を強く懸念し、反対や棄権が相次いだと報じた。
さらに、対外的には韓国との協力に言及しながら、2006年ごろから続く韓国とのFTA協議には消極的だとされる点も、発言の信頼性を損ねているとの指摘がある。逆にいえば、対米貿易(昨年の輸出額比率83%、輸入額比率41%)を経済の柱とするメキシコが、最優先課題を「USMCAの維持」に置いていることの裏返しとも受け取れる。トランプ政権と摩擦を抱えた中国と距離を取りつつ、USMCA協議に前向きに臨む姿勢の表れだという見方もある。
韓国としては、産業別振興プログラム(PROSEC)や、マキラドーラ輸出・サービス産業振興プログラム(IMMEX)などに基づく現地進出企業の関税免除インセンティブが維持されるよう、協議を進める必要があるとみられる。ただ、現地ではPROSECとIMMEXの適用範囲を巡る争いも指摘されており、政府レベルでの継続的な対応が求められそうだ。
メキシコ・ヌエボレオン自治大学のダニエル・フローレス・クリエル経済学部教授は聯合ニュースに対し、メキシコの関税政策は「一般的な通商政策と呼ぶには無理がある」と述べたうえで、韓国・メキシコFTA交渉を再開し、それを足がかりに課題の解決策を探るべきだと指摘した。














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