駐独米軍削減より深刻、対ロシア抑止ミサイル後退が欧州安保の火種に

ドイツ政府は、米国のドナルド・トランプ大統領が打ち出した駐独米軍5,000人の削減について、象徴的な措置にとどまるとの受け止めを示している。ただ、大西洋同盟の亀裂がさらに深まれば、欧州の経済と安全保障が危険にさらされかねないとの懸念も出ている。
ドイツ紙ターゲスシュピーゲルによると、ドイツ政府内では、駐独米軍の一部撤退だけで安全保障が直ちに揺らぐことはないとの見方が強い。トランプ政権が削減を予告した5,000人は、ドイツに駐留する米軍3万9,000人の約16%に当たる。
同紙は、ドイツ政府の冷静な姿勢は理解できるとしたうえで、撤退後もドイツには日本に次いで世界で2番目に多い米軍が駐留し続けると伝えている。さらに、米国はドイツから恒久的に大規模撤退することはできず、ドイツ国内の拠点は米国にとって極めて重要だという。
バイエルン州グラーフェンヴェーアには、米本土を除けば最大規模の米軍訓練場がある。シュトゥットガルトには米欧州軍(EUCOM)と米アフリカ軍(AFRICOM)の司令部が置かれ、ラインラント=プファルツ州ラントシュトゥールには海外最大の米軍病院がある。
ミュンヘン連邦軍大学のカルロ・マサラ教授は、5,000人の撤退は実質的というより象徴的な意味合いが強いと分析した。そのうえで、部隊が米国へ戻るのか、それとも東欧へ再配置されるのかが焦点になるとし、後者であればロシアに近づくことを望まなかったトランプ大統領が、結果的にそれを進める逆説的な状況になるとの見方を示した。
英紙ガーディアンも、ドイツ国内の米軍基地の役割は冷戦後に根本から変化したと指摘している。これらの基地は、イラクやアフガニスタン、イランなどを巡る米軍作戦に欠かせない前方展開拠点であり、物流の中核も担っていると説明した。
米ジョンズ・ホプキンス大学米独研究所のジェフ・ラトケ教授は、欧州駐留米軍は恩知らずな欧州人への慈善ではなく、米国の軍事的到達範囲を広げるための手段だと説明した。加えて、米国は欧州防衛を支え、欧州は米国の世界規模の軍事作戦を支えるインフラを提供していると語った。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)も、今回の削減規模は通常のローテーション配備と比べて大きくなく、トランプ大統領が1期目に押し進めた12,000人削減案よりはるかに小さいと報じている。あわせて、ドイツ駐留米軍の大半は世界各地での米軍作戦を支える人員であり、ドイツ防衛そのものを主目的に置く部隊ではないとも伝えた。
ただ、欧州の安全保障にとってより深刻な問題は、兵力削減そのものではない。トマホーク巡航ミサイルやダークイーグル極超音速ミサイルといった通常戦力による長距離打撃兵器のドイツ配備が覆されれば、対ロシア抑止に空白が生じる可能性があるとの指摘が出ている。これらの兵器は、ロシアによるウクライナ侵攻後、欧州の抑止力を強化する目的で配備が決まっていた。
マサラ教授は、米国のジョー・バイデン前大統領が2024年6月に合意したトマホークとダークイーグルのドイツ配備が、もはや有効ではなくなった点こそ問題だと述べた。その結果、通常戦力の空白が生まれてロシアに対する抑止力が弱まり、ドイツの安全保障上の利益にも影響が及びかねないと警鐘を鳴らした。
ドイツ国防省高官を務めたニコ・ランゲ氏もWSJに対し、トランプ政権がこの合意の履行を一度も約束していなかったため、ドイツ側も実現しないとみていたと語った。一方で、通常戦力による抑止の空白が埋まらないのは問題であり、欧州側にはなお代替となるミサイル能力が整っていないと指摘した。
WSJはさらに、トランプ大統領による欧州製自動車への追加関税引き上げ、ドイツへの長距離ミサイル配備計画の見直し、イラン戦争による経済面と軍事面の余波が、欧州により大きな衝撃を与える可能性があるとみている。
ポーランドのドナルド・トゥスク首相は2日、SNSの「X」に、大西洋共同体に対する最大の脅威は外部の敵ではなく、同盟の持続的な崩壊だと投稿した。そのうえで、この破滅的な流れを反転させるため、必要なあらゆる措置を講じなければならないと訴えた。













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