
日本経済が、賃上げを契機に「成長型」への転換点に差し掛かっているという見方が示された。
内閣府が発表した2025年度の経済財政白書では、賃金の上昇傾向に注目し、「近年にはなかった明るい兆しが見えている」と評価されたと、日本経済新聞が報じている。
ただし、消費の回復が遅れるなかで、賃金の伸びが物価上昇を上回る形での好循環を築くことが不可欠だと指摘した。
今回の白書は、今年の賃金と消費の動向に焦点を絞っている。25年続いたデフレからようやく脱し、賃金と物価がともに上向く健全な流れが確認されているという。
名目GDPが600兆円を突破し、2024年の賃上げ率が33年ぶりの高水準に達したことを根拠に、日本経済が明るさを取り戻しつつあると分析された。
GDPの半分以上を占める個人消費は、今後の成長のカギを握るとみられている。
しかし、現状では消費の本格的な回復は見えてこない。可処分所得に対する消費割合を示す「平均消費性向」は下落傾向を続けており、賃上げが進んでいるにもかかわらず支出を控える傾向が目立つ。
その背景として、物価上昇に対する消費者の悲観的な見方が、心理的なブレーキとなっている可能性がある。
内閣府が今年3月に実施した調査では、20〜69歳のうち80%が今後も物価が上がり続けると予測していた。
「価格が上がり続けるなら、消費を控える」との回答は90%に達し、広範囲にわたる値上がりが家計の警戒感を強めている。
宿泊や教育などサービス分野の値上げ幅はこれまで米欧より穏やかだったが、最近では2%に迫る水準となり、物価全体を押し上げる要因となっている。
不動産情報サイト「SUUMO」のデータによると、東京23区の募集家賃指数は過去9年で約20%上昇した。
総務省の統計では現在の住居に基づいた家賃が使われており、実際の募集家賃より低く見積もられることも多い。
家賃の負担割合が大きい日本では、東京を中心とした家賃上昇が節約志向をさらに強める可能性があると警鐘を鳴らしている。
一方で、物価の上昇自体は、長年のデフレからの脱却を意味し、経済正常化のシグナルとして評価できるという見方もある。
日本銀行も金利を引き上げ、「ゼロ金利時代」に終止符を打った。賃上げが継続されれば、物価上昇下でも消費の活性化につながると期待されている。
ただし、白書では、賃上げが進んでいても、それが社会全体の「当たり前」として定着していないと課題を挙げている。
内閣府の調査では、5年後の収入が今と変わらないか、むしろ減ると答えた人が約60%にのぼる。
若者でも「給料は変わらない」と考える人が多く、これが消費性向の低下に結びついているという分析だ。
バブル崩壊後に就職した世代は、実質的な賃上げを体験しておらず、賃金に対して懐疑的になりがちだとされている。
同調査では「消費を増やすために必要な条件」として、「給与の増加」が6割以上で最多だった。
一時的な手当よりも、基本給のベースアップのような継続的な収入増の方が、消費を促す効果が大きいと示唆している。
7月の参院選では、各党が賃上げや減税をインフレ対策として公約に掲げた。
一方で、一時金では限界があり、恒常的な収入の底上げが実現しなければ、家計の財布の紐は緩まないとの見方が強い。
さらに、雇用の流動性が低いことも問題視された。白書によると、転職希望者の数は増加している一方で、実際の転職率はほとんど変わっていない。
転職経験者は行動的だが、未経験者には支援の手が届いておらず、それが労働移動を妨げる壁になっているという。
また、退職金を「後払い賃金」として扱い、自己都合退職時に減額する慣習が、転職の足かせになっているとも指摘された。より柔軟な労働環境の整備が求められている。
経済財政白書は1947年の「経済実相報告書」から数えて今回が79回目。来年の80回目で、日本経済が「分岐点」を超えたと明言できるかが注目される。
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