
北朝鮮とロシアの軍事協力が急速に進む一方で、北朝鮮内部では不満の兆候が広がり、外交戦略にも明確な揺らぎが生じているとの見方が浮上している。ウクライナ戦争の長期化により弾薬と兵力を消耗したロシアは、北朝鮮に支援を求め、金正恩総書記は大規模な派兵と武器供与という極めて高いリスクを伴う選択に踏み切った。しかし、当初想定された見返りは十分に履行されておらず、結果として民心と対外戦略の双方に負担を残した形だ。
注目されるのは、トランプ第1期政権期に始まった対米接近路線が事実上行き詰まっている点である。トランプ大統領は首脳会談に強い意欲を示してきたが、北朝鮮側はその交渉手法を見極めたうえで、核保有国としての明確な承認がなければ応じない姿勢に転じたとされる。第1期政権下での首脳外交が具体的成果を伴わず、むしろ外交的リスクを露呈した経験が、金正恩に慎重姿勢を取らせているとの分析がある。
一方で、金正恩がトランプとの再会談に一定の関心を残しているとの見方も根強い。両者はいずれも強い自己演出志向を持ち、国際舞台での注目を好む点で共通している。シンガポールや板門店での会談が、北朝鮮国内において指導者像の演出に寄与したことを考えれば、象徴的外交イベントとしての価値はいまなお金正恩にとって魅力的であるとみられる。

北朝鮮とロシアの関係は、表向きには軍事同盟に近い水準まで言及されることがあるが、実態は必ずしも盤石ではない。北朝鮮は砲弾600万発以上に加え、イスカンデル系ミサイルや各種火器、防弾装備、さらには数千人規模とされる兵力を提供したと伝えられている。しかし、ロシア側が約束した核潜水艦関連支援、偵察衛星技術、空軍近代化といった核心的見返りは、事実上履行されていない。
衛星打ち上げの失敗が続き、経済協力の効果も顕在化しないなか、北朝鮮内部では為替レートが急騰し、ルーブル決済への転換はかえって経済不安を拡大させた。平壌内部の関係者や留学生の証言によれば、ロシアに派遣された部隊の被害は想定以上で、生還兵も十分な補償を受けないまま部隊に復帰し、厳しい思想統制下に置かれているという。遺族への金銭的支援が行われなかった事例も少なくなく、「犠牲に見合う成果がない」との不満が内部で広がっているとの指摘が出ている。
経済面でも、ロシア依存は期待通りに機能しなかった。価値の下落したルーブルによる決済が続くなか、北朝鮮経済の混乱は放置され、金正恩が描いた「ロシア経由の経済好転」は実体を伴わずに終わった。その結果、北朝鮮は再び中国との貿易を活発化させ、平壌で中国製製品の展示施設が復活するなど、外交・経済の多角化を模索する動きも見られる。

そもそも北朝鮮とロシアの協力関係は、ロシア側の戦時的必要性から始まった側面が強い。戦況の変化や戦争終結が現実味を帯びた場合、北朝鮮の戦略的価値は急速に低下する可能性がある。金正恩が選択した単一軸の対露依存外交は、実利が得られなくなった瞬間に深刻なリスクへと転じる構造を内包しており、現在表面化しつつある緊張はその前兆とみる向きが強い。
結果として、金正恩のロシア依存路線は、短期的な外交演出と引き換えに、長期的な不安定要因を抱え込む選択となった。約束された見返りが履行されない現状において、北朝鮮内部で疑念と亀裂が拡大している点こそが、両国関係が持続的な求心力を持ち得ない最大の理由である。














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