
イギリスの大学研究チームが、古代エジプトで発見された骨のDNA検査を通じて、約4500年前にメソポタミア地域との人や情報の交流が存在していたことを明らかにした。これは二つの古代文明のつながりを示す初の生物学的証拠となる。
調査対象となったのは、紀元前4500年頃にナイル川流域で暮らしていたとされる陶芸家の男性の遺骨。リバプール・ジョン・ムーア大学の研究チームが行ったDNA分析により、この男性のDNAの約20%が、現在のイラクに相当するメソポタミア地域に住んでいた祖先に由来することが分かった。
この成果は、古代エジプト文明が孤立した農耕共同体から強大な国家へと発展する過程で、他文明からの影響を受けていたことを示す新たな証拠とされている。特に、文字や農業といった文化要素が、こうした文明間の交流を通じて育まれた可能性に重みを与える研究結果だ。
DNAはカイロ南部の村、ヌワイラットで見つかった男性の内耳の骨から採取された。彼は45歳から65歳まで生きたと推定され、職業は陶芸家だった可能性が高い。骨の特徴からは、長時間の座位作業や重いものを持ち上げる日常がうかがえ、勤勉な労働者としての姿が浮かび上がる。
この遺体は、丘の斜面を掘って造られた墓の中の土器の壺に埋葬されていた。人工ミイラ化が一般化する以前の埋葬であったため、DNAの保存状態は非常に良好だった。さらに歯に含まれる化学物質の分析から、彼がナイル川流域で生まれ育ったことも推定された。
研究に参加した考古学者たちは、エジプトとメソポタミアという二つの文明の中心が、単なる交易品のやり取りではなく、人そのものの移動を伴う深い関係にあったことを初めて科学的に示せたと述べている。
この遺骨は1902年に発掘され、リバプール世界博物館に保管されてきた。第二次世界大戦中のナチスによる爆撃で多くの収蔵品が失われた中、この骨は奇跡的に破壊を免れ、今回の研究が可能となった。
研究チームは「この発見は、人類の歴史における文化と技術の伝播のあり方に対する理解を深める手がかりになる」とし、今後のさらなるDNA分析によって、古代世界の人の動きや文明の広がりをより詳細に解明できることに期待を寄せている。
この研究成果は、科学誌『ネイチャー』のウェブサイトで7月2日付で公開された。
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