爬虫類の多くは卵を産むと巣を離れ、孵化後の生存は子に委ねられるのが一般的だ。しかしワニは例外で、一定期間巣と卵を守り、孵化直後の子にも保護行動を示す。その姿は、ワニが長い進化の中で維持してきた生存戦略を物語っている。

雌ワニは産卵期になると、水辺に土や砂、落ち葉、草を積み上げて巣を作る。巣は内部の温度を一定に保つ構造になっており、温度は孵化だけでなく性別をも左右する。31度以下では雌、32〜33度では雄、34度以上では再び雌が生まれる。この「温度依存性決定」はワニ特有の仕組みだ。
一度に産む卵の数は種によって異なり、20個から多い場合は100個を超える。孵化までの期間はおよそ65〜90日。この間、母ワニは巣を離れず、鳥や哺乳類、さらには他のワニといった天敵から卵を守り続ける。
孵化が近づくと、子ワニは「エッグトゥース」と呼ばれる特殊な器官で殻を割り始める。同時に発する鳴き声を聞き取った母ワニは巣を掘り返し、時には殻を噛み砕いて脱出を助ける。

体長20センチほどで生まれる子ワニは極めて無防備で、多くの天敵に狙われやすい。母ワニはそんな子を口にくわえて水辺や隠れ場所へ運ぶ。この行動は一見すると捕食のように見えるが、実際には保護だ。数百キロの咬合力を持つ顎でありながら、力を絶妙に調整して子を傷つけない。
一部の種では、孵化後もしばらく子の近くにとどまり、外敵から守る。やがて子が自力で餌を捕らえられるようになると母ワニはその場を去るが、成体まで生き残れるのはわずか1〜2匹程度に過ぎない。母の献身的な行動は、その低い生存率の中で種を存続させるための不可欠な戦略なのだ。
冷血で無情というイメージを持たれがちな爬虫類だが、ワニは卵を守り、子を口に乗せて運ぶなど、本能的な子育てを行う動物である。それこそが、彼らが今日まで地球上で生き延びてきた理由の一つといえるだろう。
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