太平洋南西部ニューカレドニア・ヌメア沖で、絶滅危惧種トラフザメ(Stegostoma tigrinum)が3匹同時に交尾する様子が世界で初めて記録された。豪州サンシャインコースト大学の研究チームが撮影に成功し、学術誌「Journal of Ethology」に報告した。

研究チームによれば、観察されたのはオス2匹とメス1匹。オスは胸びれを咥えてメスを固定し、交互に交尾を行った。実際の交尾は合計約110秒で終了し、最初のオスが63秒、2番目のオスが47秒間にわたり交尾した。その後、3匹は海底に横たわる姿を見せたという。野生下でこうした連続的な交尾行動が確認されたのは初めてである。

繁殖地の可能性と保全への示唆
今回の行動が記録されたヌメア沖は、トラフザメにとって重要な繁殖地である可能性が高いと研究者らは指摘する。繁殖地は個体群の維持に欠かせないため、今後は保護区指定や管理強化の議論につながるとみられる。また、人工授精や再導入プロジェクトに取り組む研究にも基礎資料として活用される見通しだ。

トラフザメとは
トラフザメはテンジクザメ目トラフザメ科に属する大型のサメで、成体は全長2〜3メートルに達する。体色は淡褐色の地に暗色の斑点が散りばめられており、英名では「レオパードシャーク」「ゼブラシャーク」とも呼ばれる。幼魚期は縞模様、成長すると斑点模様へ変化するのが特徴だ。
餌は小魚や甲殻類、頭足類などで、人間にはほとんど危険性がない温和な種とされる。繁殖様式は卵生で、大型の卵鞘を産み、体外で孵化させる。

保全の必要性
トラフザメはIUCNレッドリストで絶滅危惧種に分類されている。沿岸開発や乱獲の影響で個体数は減少傾向にあり、近年は「ReShark」など国際的な保全プロジェクトが進行中だ。今回の観察は、この種の繁殖生態を解明する上で画期的であると同時に、繁殖地の保護強化を求める声を後押しするものとなった。
今回の“3匹同時交尾”は単なる珍しい映像にとどまらず、絶滅危惧種の未来を守るための科学的根拠となる。失われつつある海洋生態系の均衡を取り戻す一歩として、学界はその意義を強調している。
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