
暗号通貨『ビットコイン』への投資で急速に富を得た個人を標的とし、誘拐や拷問によって暗号通貨を強奪する事件が相次いでいる。
米メディア『ニューヨーク・タイムズ(NYT)』は17日(現地時間)、犯罪増加に伴い、投資家に誘拐対処法を教育する訓練や防犯措置を提供する新たな警備事業への関心が高まっていると報じた。
10月末、イタリア国境に近いスイスの『ルガーノ湖畔』で開かれた暗号通貨会議では、最終日のプログラムとして誘拐時の対処法を扱うワークショップが実施された。
英国海兵隊出身の講師は、プラスチック製ケーブルタイで両手を拘束された参加者に脱出の手順を説明した。「固定部を噛み切れば抜け出せる」と述べた上で、「実行には強い痛みを伴う」と付け加えた。
裕福な暗号通貨投資家は、拷問や誘拐への不安を強めている。今年に入り、暗号通貨投資家やその家族が標的となった事案は60件を超えた。フランスでは、暗号通貨関連の発信者の父親が縛られた状態で暴行され、車のトランク内でガソリンをかけられた姿で発見された。
米ミネソタ州では、強盗が暗号通貨投資家の家族を約9時間にわたり銃で脅し、800万ドル相当(約12億4,000万円)の暗号通貨へのアクセス権を要求した。ニューヨーク市マンハッタンでは、暗号通貨トレーダーの自宅で暴行した2人の男が起訴された。
暗号通貨分野では、パスワードを提示しなければモンキーレンチで殴ると脅す漫画に由来し、こうした犯罪は「レンチ攻撃」と呼ばれている。「レンチ攻撃」の増加は『ビットコイン』価格の上昇と歩調を合わせた。『ビットコイン』は先月、12万6,000ドル(約1,955万円)の最高値を付け、新たな富裕層を生んだが、その多くは個人警護を受けていない。
暗号通貨の特性が犯行誘発の一因に
暗号通貨は、攻撃者にとって取得が容易な資産ともいえる。銀行送金と異なり、金融機関の承認を経ずに即時に移動でき、取り消すこともできない。身代金を要求する誘拐犯は、公開元帳に記録された資金移動をリアルタイムで追跡できる。
『ルガーノ会議』の誘拐対策ワークショップを主催したのは、チェコ共和国の『アレナ・ブラノバ氏』である。ブラノバ氏は「誘拐と脅迫は現在、週1件の水準だ」と述べた。
1月には深刻な事件が発生した。暗号通貨ハードウェア企業『レジャー(Ledger)』の共同創業者『ダビッド・バラン氏』がフランスの自宅で妻とともに誘拐された。攻撃者はバラン氏の指を切断して撮影し、暗号通貨による身代金を要求した。身代金の一部が支払われ、夫妻は約48時間後に警察が保護した。
ブラノバ氏は「ハードウェアウォレットの共同創設者が標的になるのであれば、他の誰もが狙われる可能性がある」と述べた。
ブラノバ氏はセミナーで過去の誘拐事案について説明し、実例を挙げて状況を整理した。2日後、参加費1,000ユーロ(約18万円)のワークショップには5人の男性が参加した。
参加者は全員、実名の公表を拒んだ。ワークショップへの参加自体が誘拐犯に狙われる要因になり得るという懸念があったためとみられる。講師陣はまず、誘拐を未然に防ぐ基本措置を挙げ、富を誇示しないことを最初の留意点とした。
講師陣は、暗号通貨で巨額の利益を得た人物が『ロレックス』の腕時計やヨットパーティー、高級スポーツカーの写真を『ソーシャルメディア』に投稿する行為を避けるよう警告した。ブラノバ氏は「ランボルギーニの自慢は禁物だ」と述べた上で、誘拐犯の侵入を防ぐため、参加者にウェッジ型ドアストッパーを配布した。
「レンチ攻撃」対策と自衛能力
続いて、「ハニーポット詐欺」と呼ばれる手口への警戒が促された。魅力的な女性を使って標的に接近し、状況を把握したうえで犯行に及ぶ形態が典型である。講師は「私が皆さんのような人物を狙う立場であれば、まず女性を使って接近させる。ビットコインに詳しいと公言すれば、標的と認識されやすくなる」と述べた。
英国出身の講師は、米国人やロシア人の警護員は外見が目立ちやすく警護に不向きだと指摘した。スーツ姿が周囲から浮くためで、英国の警護員は環境に溶け込みやすいと語った。
講師は、高度な保護措置を備えても誘拐を完全に防ぐことは難しく、自衛能力が重要だと強調した。また、ボールペンやベルトクリップ、傘などの日用品が攻撃手段になり得るとして、攻撃者を無力化する技術を実演した。
さらに「ジャッキー・チェンのような動きは必要なく、鎖骨を折ればよい」とし、膝への強い打撃も有効だと付け加えた。提示された技術は、暗号通貨を狙う犯罪への防御手段と位置づけられた。
一方、ワークショップの説明書には「命は暗号通貨より優先されることを忘れないように」と記され、無理な抵抗を避けるよう注意が促されていた。














コメント0