
ドナルド・トランプ米大統領の関税政策による経済的影響は、これまで懸念されていたほど深刻ではない可能性が出てきた。
米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』が7月12日に報じた四半期ごとのエコノミスト調査によると、過去3カ月と比べて米国の経済成長や雇用の回復が強まる一方、景気後退のリスクとインフレ率は低下するとの見方が多かった。
ただし、トランプ大統領は調査終了後の先週、ブラジルやカナダ、メキシコ、EUなどに対し、8月1日から想定以上の関税を課す方針を明らかにしており、改善傾向が今後も継続するかは依然として不透明だ。
調査では、第4四半期のインフレ調整後GDP成長率は前年比1%と予測された。これは4月時点の0.8%よりは上方修正されたが、1月の予測(2%)と比べると半分の水準にとどまる。
景気後退のリスクは、12カ月以内で33%と見込まれ、4月の45%からは改善されたものの、1月の22%よりは高く、慎重な見方が続いている。
全米レストラン協会の主席エコノミスト、チャド・ムートレイ氏は「多くの逆風にもかかわらず、米経済は持ちこたえており、消費者の支出も続いている。ただし、雰囲気は明らかに楽観から慎重へと変化している」とコメントしている。
WSJは、前向きな見通しは過去3カ月の経済指標が全般的に好調だったことに基づくと指摘する。雇用面では月平均15万人の新規雇用が創出され、失業率も5月の4.2%から6月には4.1%へと改善した。
さらに、S&P500株価指数は今月に入り過去最高値を記録。新規失業保険申請件数も懸念すべき水準には至っていない。
物価上昇についても、関税が直接的にインフレを押し上げていないことが注目される。変動の大きい食品・エネルギーを除いたコアCPIは5月に前年比2.8%上昇し、FRBの目標(2%)は上回ったものの、約4年ぶりの低水準となった。
一方、関税発効を見越して消費者や企業が購買を前倒しした影響で、今年第1四半期の輸入は前年比26%増加。だが4月の関税開始後には輸入が急減した。
KPMG米国法人のチーフエコノミスト、ダイアン・スワンク氏は「関税だけでなく、不法移民への取り締まりや減税法による財政への影響が実体経済に反映されるには時間がかかる」と分析している。
また、FRBの6月の会合議事録では、一部関係者が「関税発効前に蓄積された在庫が消化されるまで、企業は価格転嫁を控えるだろう」との見方を示していた。
今後の見通しについては、関税引き上げにより下半期にインフレ圧力が高まる可能性がある一方で、エネルギーや住宅費のインフレが鈍化することで、その影響は一部相殺されるとの意見も出ている。
調査に参加したエコノミストたちは、「減税法」により今年のGDP成長率が0.2%ポイント、来年は0.3%ポイント押し上げられると予測する一方、移民抑制と追放の増加が今年と来年の成長率をそれぞれ0.2%ポイント、0.3%ポイント押し下げる要因になるとも見ている。
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