
米国のドナルド・トランプ大統領が米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)を相手取り、150億ドル(約2兆2,199億円)規模の損害賠償訴訟を起こしたことに対し、同紙のCEOが圧力に屈しない姿勢を明確に示した。NYTカンパニー社長兼CEOのメレディス・コピット・レヴィン氏は、ロサンゼルスで英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)主催の「Business of Entertainment Summit 2025」に出席し、この見解を述べた。
レヴィンCEOは、トランプ大統領の訴訟を法的根拠のない、独立したジャーナリズムを脅迫し屈服させようとする反メディア戦術だと非難した。トルコ、ハンガリー、インドなどの国々を例に挙げ、これらの国々は選挙を行うものの、政権への反対意見を抑え込もうと躍起になっていると指摘した。さらに、そうした国々で用いられる反メディア戦術は、ジャーナリストを苦しめ、独立したジャーナリズムへの不信をあおるものであり、米国で現在起きていることと同様だと批判した。
さらに、レヴィンCEOは今回の訴訟に法的根拠が全くないと断言した。トランプ大統領の目的は独立したジャーナリズムを窒息させ、NYTや他のメディアが事実に基づいた報道を行えないようにすることだと分析した。彼女は「(トランプ大統領の訴訟は)そのような効果を生まないだろう。NYTは事実が指し示す先であれば、どこへでも追及を続け、不快な場所であっても貫徹する」と強調した。
FTによると、レヴィンCEOがトランプ大統領のNYTに対する今回の訴訟について公に発言したのは、これが初めてだという。トランプ大統領は15日夜、フロリダ州の連邦地方裁判所に提出した訴状で、NYTを「トランプ大統領に関する虚偽を広めることに躍起になっている厚顔無恥なメディア」と非難した。彼は150億ドルの損害賠償に加え、裁判所に懲罰的賠償も求めている。
トランプ大統領が米主要メディアを相手に数十億ドル規模の名誉毀損訴訟を起こすのは、昨年3月以来、これで4回目になる。訴えられた全国ネットワークのうち、ABCニュースは昨年12月に、NBCニュースは今年7月に、巨額の和解金支払いを条件に合意した。トランプ大統領側はその見返りに訴訟を取り下げることに同意した。和解金額はABCニュースが1,500万ドル(約22億1,984万円)、NBCニュースが1,600万ドル(約23億6,743万円)であり、これらの資金はトランプ大統領図書館の建設に充てられる予定だ。
今年7月、トランプ大統領はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が虚偽報道で彼の名誉を傷つけたとして、100億ドル(約1兆4,796億円)の損害賠償訴訟を起こした。WSJが、トランプ大統領と親交のあった性犯罪者ジェフリー・エプスタイン氏の50歳の誕生日に作成された「バースデーブック」に、トランプ大統領の署名入り手紙が含まれていたと報じたことが問題視された。
WSJの親会社「ダウ・ジョーンズ」は、この訴訟に対して「断固として争う」姿勢を示している。報道の自由に関する専門家らは、NYTを相手としたトランプ大統領の損害賠償訴訟は「根拠のない」ものであるとの見解をFTに示した。ハーバード大学ロースクールのレベッカ・トゥシュネット教授は、今回の訴訟提起について「真実、米国民、司法手続き、そして米国の伝統の中で我々が尊重すべきすべてのものに対する冒涜だ」と評した。
イェール大学ロースクール情報社会プロジェクト(ISP)のフェローを務めるユタ大学ロースクールのロネル・アンデルセン・ジョーンズ教授(Ronell Andersen Jones)は、今回の訴訟の法的争点自体は重要ではないと指摘した。彼女は「メディアへの反対声明としての役割」、「防御に莫大な費用がかかる訴訟を起こすこと」、「批判的な調査報道の有力な情報源に対抗するためのレバレッジを得ること」がトランプ大統領の主な目的ではないかと分析した。ホワイトハウスはFTのコメント要請に即座には応じなかった。
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