いつかは自立すると思っていた――子も、私も年老いてしまった「子供部屋おじさん」問題

「パラサイト・シングル」という言葉は、2000年代に流行した。大学を卒業して年齢を重ねても結婚や独立をせず、親と同居しながら生活費などを親に頼る大人を指す。
そして2020年前後、ネット上で「子供部屋おじさん」というスラングが登場した。これは30代後半以降の中年男性で、経済的に独立できず、実家の自分の学生時代の部屋(子供部屋)で暮らし続ける未婚男性を揶揄する表現だ。
最近、オンラインメディア「ゴールドオンライン」は、50代の息子2人と暮らす78歳の高齢女性の事例を紹介した。
東京都郊外の住宅街に住む田島節子さん(仮名・78歳)は、すでに50代となった2人の息子と共に暮らしている。夫は10年前に他界した。
現在の固定収入は月19万円ほどの遺族年金のみ。加えて、夫が残したわずかな預貯金を切り崩しながら生活している。
2人の息子は大学卒業後に就職した経験はあるものの、安定した職を得ることができなかった。結果として、40代になるころには2人とも非正規雇用を転々とする状況に陥った。
長男はまだアルバイトをしているが、次男は最近ほぼ無職の状態だ。「仕事が見つからないんだ」と言い訳しながら、家に引きこもる日々を続けている。
節子さんはこう語る。
「最初は一時的なことだと思っていた。『次の仕事が見つかるまで』とか、『資格の勉強をしている間だけ』とか。でも気がついたら10年、20年があっという間に過ぎていた」そして「このまま私が死ぬまで、2人の食事や生活をずっと面倒見なければならないのかと思うと、息が詰まる」と嘆いた。

節子さんの一日は、食事の支度、洗濯、掃除などの家事で始まり、家事で終わる。2人の息子が一日のほとんどを家で過ごしているため、朝・昼・晩と三食分の食事を用意せざるを得ない。
たまには外食したいと思っても、息子たちから「そんな余裕あるの?」と小言を言われることもある。休日も旅行などは考えられず、近所での買い物以外に外出する気も起きないという。
しかし、家が心地よいわけでもない。節子さんは「家の中に私の居場所がない気がする」と話す。
「正直、息子たちには出て行ってほしいと思ったことも何度もある。でも行く場所がないのにどうすればいいんでしょう。自立する経済力がない。結局、どこにも出せないまま今日まで来てしまった」
中年の子どもを高齢の親が扶養することを「8050問題」と呼ぶ。80代の親が50代の未婚の子どもを養うという意味だ。高齢の親が自らの老後資金や年金を切り崩して中年の子を支える「老老扶養」の極端な形であり、家族全体が経済的・社会的に孤立する危機に直面している。
この問題は、1990年代のバブル崩壊後、「就職氷河期世代」と呼ばれた当時の若者たちが就職難や社会不適応を理由に引きこもりとなり、そのまま20年以上が経過して50代に達したことから生じた。以前は「7040問題」とも呼ばれていた。
親たちは子どもの引きこもりを恥じ、外部に助けを求めず一人で抱え込む傾向があり、それが孤立をさらに深刻化させる要因となっている。
生活保護などの支援制度があるが、親子が同居している場合、世帯単位で収入が合算される。そのため、親の年金額が一定以上あると、子ども個人が生活保護を受けることが難しくなり、福祉の「空白地帯」に陥ることが多い。
このように親の年金に依存して経済力を失った状態で親が亡くなると、子どもの生活は即座に途絶える。そのため、親の死亡後に子どもが数年間それを隠して年金を不正受給したり、生活が破綻して親子そろって孤独死する事件も発生している。
平均寿命の延びに伴い、「8050問題」が「9060問題」に進化しているという警告も出ている。
節子さんが息子たちに「そろそろ独立しなさい」と言えない理由の一つには、自責の念もあるという。「ちゃんと育てられなかった自分の責任も大きい」と感じているのだ。
「息子たちへの愛情がないわけではない。でも時々ふと思う。私はこの子たちの『人生の保険』だったのかなって。自分の人生を振り返ると、老後にやりたかったこと、行きたかった場所、会いたかった人、全部後回しになってしまった」と語った。
厚生労働省が発表した「2019年国民生活基礎調査」によると、65歳以上の高齢者がいる世帯のうち20%が、親と未婚の子どものみで構成されていた。
また、国勢調査(2020年)によれば、親と同居している40代の未婚の子どもは全国で約246万人に上るという。
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