
遺伝子編集技術で開発された小麦を用いてトーストを焼くと、発がん物質であるアクリルアミドを最大92%削減できることが明らかになった。
ナブニート・カウル氏、ナイジェル・ハルフォード氏(英・ロザムステッド研究所)らによる研究チームは、2年間にわたる圃場試験と製パン試験の結果を、国際学術誌「Plant Biotechnology Journal」に4月1日(現地時間)付で発表した。
アクリルアミドは、小麦やジャガイモなど炭水化物を多く含む食品を120度以上の高温で焼いたり揚げたりする際に生成される物質である。国際がん研究機関(IARC)は、これを「ヒトに対して発がん性がある可能性がある物質」に分類している。
パンやビスケット、ポテトチップスなどの加工食品に広く含まれるため、食品業界の長年の課題となっている。アクリルアミドは主に、小麦粒に含まれるアスパラギンというアミノ酸から生成される。アスパラギンの含有量を減らせば、アクリルアミドの生成も抑制できる。
研究チームは、クリスパー(CRISPR/Cas9)による遺伝子編集技術を用いた。CRISPRは特定の遺伝子領域を正確に切断したり機能を停止させたりできる技術で、「遺伝子はさみ」とも呼ばれる。研究チームは、この技術を用いて小麦のアスパラギン合成酵素を担う遺伝子「TaASN2」と「TaASN1」の機能を停止させた。
2022年から2024年にかけて英・ロザムステッド研究所の試験圃場で栽培した結果、TaASN2のみを停止した品種ではアスパラギン含量が通常の小麦に比べ59%減少し、TaASN1も同時に停止した品種では最大93%減少した。関連遺伝子を追加で停止するほどアスパラギン含量は顕著に低下し、両遺伝子を停止した場合にはほぼ消失する水準にまで減少した。
この遺伝子編集小麦でパンを焼いた場合、その効果はさらに顕著だった。TaASN1とTaASN2の両方を停止した品種では、アクリルアミドはほぼ検出されなかった。4分間トーストしても、通常の小麦パンの約8%に抑えられた。TaASN2のみを停止した品種では、パンで約14%、トーストで約23%の水準だった。通常の小麦では加熱時間が長くなるほどアクリルアミドが増加するのに対し、遺伝子編集小麦では十分に焼いても発がん物質の生成が大幅に抑えられた。
ビスケットでもアクリルアミドは92%減少した。パンやビスケットの色合いは通常の小麦とほぼ差がなかった。アクリルアミドは焼成時に生じる褐変反応とともに生成されるが、遺伝子編集小麦では同様の色合いを保ちながら生成量を大幅に抑えられた。
収量への影響は確認されなかった。遺伝子編集小麦の収量は通常の小麦と統計的に有意な差がなかった。一方、TILLING(標的誘発局所病変)と呼ばれる方法で作出された小麦では収量が22.5%減少しており、CRISPRによる遺伝子編集の優位性が示された。
英国は2023年にゲノム編集作物に関する法制度を整備し、2025年11月からCRISPRなどの精密育種技術による作物の商業化承認手続きを開始する予定だ。欧州連合(EU)もアクリルアミドの最大許容基準を新たに定める規制を準備している。
基準が強化されれば、従来の製造方法では対応が難しくなる可能性がある。低アクリルアミド小麦が実用化されれば、生産工程の変更や製品品質の低下を伴わずに規制に対応できる現実的な選択肢となり得る。
研究チームは「アスパラギン含量の低い小麦が実用化されれば、食品メーカーは製造工程を変更したり品質を犠牲にしたりすることなく、強化されるアクリルアミド規制に対応できる」としている。















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