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「未知の領域へ」インフレと失業の狭間で揺れるFRB…議長の発言で市場動揺

荒巻俊 アクセス  

トランプの関税戦争が米中央銀行である連邦準備制度(FRB)を「未知の領域」に引き込んでいる。物価と最大雇用という二重の責務を負うFRBが、現在の経済状況でどちらに重点を置いて財政・金融政策を展開すべきか、ジレンマに陥っている。

FRBのジェローム・パウエル議長が市場に対して率直に悩みを語ったことで、すでに安心感を求めていた投資家たちが不安になり、ニューヨーク株式市場はさらに下落した。

彼の発言を詳しく見る前に、米FRBの独特な二重責務について理解する必要がある。通常、物価管理を単一の目標とする他の中央銀行とは異なり、FRBは独自の任務体系を持っている。前述のように、物価管理と最大雇用を同時に追求している。

この政策負担は、アメリカ経済がスタグフレーションに苦しんでいた1970年代に課された。高インフレと高失業率が同時に発生していた状況で、アメリカ議会はFRB法を改正し、中央銀行の目標を「最大雇用、物価の安定、緩やかな長期金利」と明記した。ここで、物価の安定と緩やかな長期金利が物価管理としてまとめられ、最大雇用と合わせて「二重責務」が完成する。

私が記者として活動を始めた2003年から現在までの22年間、アメリカ経済を振り返ると、FRBが、この二重責務に直面し、迷うような状況はほとんどなかった。

例えば、世界経済を直撃した2008年の世界金融危機と景気後退の局面で、FRBは政策金利をゼロ(0)に近い水準まで引き下げ、景気防衛(最大雇用)に集中した。

その後、現代社会が経験したことのない感染症による経済ショックである2020年のパンデミック時も、全ての経済活動が停止(stand still)したため、2008年と同様に迅速に金利を引き下げ、雇用防衛に乗り出した。

逆に、ウクライナ戦争などでグローバルサプライチェーンの危機が深刻化していた2021年から翌年にかけて物価が急騰したため、FRBは2022年に425ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)、翌年には100bpまで利上げし、急騰するインフレ抑制に乗り出した。

しかし、中国を相手に145%の相互関税など、世界各国を相手に想像を超える関税戦争を繰り広げているトランプの経済政策は、FRBの想定を超えているようだ。

関税率の引き上げがもたらす当然の物価上昇圧力とともに、景気後退を引き起こし失業率を悪化させる可能性があるためだ。

パウエル議長はこの日の演説で、トランプ政権の予想以上に高い関税のため、物価上昇と成長鈍化が予想されるとし「おそらく今年いっぱい、私たちの目標達成を妨げる要因となる可能性が高い」と述べた。トランプの関税戦争によって株価暴落という災難に見舞われた市場は、彼の口から前向きなメッセージを期待していたが、逆に「私も対処法がわからない」という嘆きが返ってきた。

彼は政策金利引き下げなどの金融政策の調整は考えておらず、状況をさらに見守るという従来の立場を再確認し「我々は二つの目標(物価と最大雇用)が緊張関係に置かれる挑戦的なシナリオに直面する可能性がある」と苦悩を吐露した。

このようにパウエル議長の口からいわゆる「フェド・プット」効果を期待していた市場は絶望感を表し、ハイテク株中心のナスダック指数は3.07%まで下落した。フェド・プットとは、不安定な株式市場の状況でFRB議長が口頭で市場を安定させる効果を意味する。まるで投資家にプットオプションを与えるかのように市場を楽観的にさせる。

それでは、FRBは物価が上昇し景気後退で失業率まで上昇する状況で、どのような選択をするのだろうか。

ジャネット・イエレン氏など過去の議長の発言を見ると、FRBの優先順位は物価よりも雇用に近いようだ。いわゆる人道的アプローチとして、雇用確保が優先されなければ国民が高物価に対処できないという論理だ。

しかし、FRBの非公式な代弁者とされる「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」のニック・ティミラオス記者は、この日のパウエル議長の発言に関する記事で、二重責務が衝突する場合、パウエル議長は雇用よりも物価に優先順位を置くことを示唆していると分析している。

彼はパウエル議長が「物価安定がなければ全ての米国民に利益をもたらす長期的な強力な労働市場の状況を達成できないことを念頭に置き、二つの目標のバランスを取ろうと努力する」と発言した部分に、その手がかりを見出している。

ティミラオス記者の分析によれば、パウエル議長は米失業率に深刻な危機の兆候が現れるまで、トランプ大統領が求める政策金利引き下げを最大限に先送りし、物価管理に集中すると見られる。パウエル議長は昨年8月ワイオミング州ジャクソンホール会議で「我々は責務を果たすことを躊躇せず、我々の行動は物価安定回復への強い意志を示した」と述べ、FRBがインフレとの戦いで勝利したと公式に宣言した。政策金利を引き下げるという金融政策の転換(pivot)宣言だった。彼は「我々は屈せず最善を尽くし、その結果は最高だった」と自画自賛したが、トランプの登場によりわずか8ヶ月でFRBと市場は巨大な不確実性に直面することとなった。

「これをどのように判断すべきか(FRBには)現代的な経験が存在しない」

現在の経済状況に関するパウエル議長の16日の発言は、トランプ大統領による関税戦争が、いかに経済にとって無謀で自分たちを傷つけるような行為だったかを示す、また一つのはっきりとした証拠となった。

荒巻俊
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