
今月12日、米国と中国が今後90日間、互いに関税を引き下げると発表したことで、両国間で激化していた貿易戦争はひとまず沈静化する見通しとなった。
8月12日までの関税引き下げ猶予期間中、今後の交渉の行方を慎重に見守る国々がある。それが東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国だ。
先月2日、ドナルド・トランプ米大統領が「解放の日」と称して関税措置を発表した際、ASEAN諸国も例外なく高率の関税を課された。
16日、シンガポールのニュースチャンネル「チャンネル・ニュース・アジア(CNA)」は、ASEAN諸国が7月8日の関税猶予期限を前に米国との交渉を通じて関税引き下げを目指しているものの、中国が米国との交渉でASEANよりも有利な関税条件を勝ち取るのではないかという懸念が高まっていると報じた。
トランプ政権はベトナム、マレーシア、インドネシアを「非関税障壁が高く、米国製品に高い関税を課す国々」として「ダーティー15」に含めた。
シンガポールにあるISEASユソフ・イシャク研究所(ISEAS)のASEAN研究センターの研究員ジョアン・リン氏は、8月12日以降に中国製品の関税がASEAN製品よりも低くなれば、これまで中国の代替として注目されてきたASEAN諸国の投資・製造拠点としての魅力が損なわれると警鐘を鳴らした。
リン氏は、「米中貿易摩擦の高まりを受けて、中国企業が生産拠点を移していたベトナムやマレーシア、インドネシアにとって深刻な懸念となる」と指摘した。また、「中国製品の関税がさらに下がれば、ASEAN加盟国への生産拠点移転や外国からの投資が鈍化する可能性がある」との見方を示した。
一方、ベトナム、マレーシア、インドネシアは米国との早期協議対象国に含まれているとされる。米通商代表部(USTR)のジェイミソン・グリア代表は今月9日、ベトナムなどとの実質的な交渉成果があったと明かしている。
ISEASの研究員リン氏は、米国とASEANの交渉結果次第で、ASEAN諸国が世界の通商秩序の中で競争力を維持できるか、それとも周縁に追いやられるかが決まると予測している。
ASEAN各国は対応策として米国製品の輸入拡大を表明している。インドネシアは、32%の関税を課されたにもかかわらず、米国産の小麦、大豆、原油、液化石油ガス(LPG)などの輸入に切り替え、年間の米国からの輸入額を190億ドル(約2兆7,543億2,702万円)まで拡大する計画だ。
こうした努力にもかかわらず、中国がASEAN諸国よりも低い関税を獲得する場合、中国からの投資がASEANから引き上げられる可能性がある。
また、インドネシア経済法律研究センター(CELIOS)のビマ・ユディスティラ所長は、「欧米の投資が再び中国に戻る可能性がある一方で、ASEAN最大の経済国であるインドネシアは、関税交渉で中国に大きく後れを取っている」と懸念を示した。
36%の関税が課されたタイも、米国産のトウモロコシ、天然ガス、エタンの輸入拡大を表明し、関税の引き下げと非関税障壁の撤廃を提案している。
今月初め、タイのセター・タウィーシン首相は米国との非公式協議が進んでおり、90日間の猶予期間中に本格交渉が再開されるとの見通しを明らかにした。タイ紙「バンコック・ポスト」は、セター首相が米国との「秘密合意」も可能性として言及したと報じた。
一部海外メディアは、タイ政府が米国への交渉案を既に提出し、接触の機会をうかがっていると伝えており、タイが早期協議の対象国に含まれなかったことへの不満が国内で高まっているという。
CNAは、米国が中国との交渉に注力する中、ASEAN諸国の間でも米国との合意をめぐり水面下で激しい交渉競争が続いていると報じている。
米トランプ政権が中国との交渉にさらに注力する中、専門家らはASEAN諸国間でも米国との関係改善を巡って交渉競争が明らかに続いていると見ているとCNAは伝えた。