宇宙ゴミを出さずに衛星除去 仏企業ダークが新技術開発

クレーンゲームに似たアームを搭載
標的衛星を捕らえ減速、海上へ落下誘導
本体を破壊せず、デブリも発生しない
他の衛星や地上都市への被害も防止
航空機から空対空ミサイルのように発射
運用コストは低廉…2年後に試験打ち上げへ
「上空に行くほど気球はどんどん膨張して、最終的には破裂する。だからその前にミサイルを撃たなきゃならない」、巨大な気球に吊るされ、今まさに地上を離れようとしている英国の秘密情報機関「キングスマン」のエージェント、ロキシー(ソフィー・クックソン)が、上司から真剣な口調で念を押される。
ロキシーが乗っているのは、本来は気象観測機関が高度数十kmの大気環境を調べるために使用する気球だ。だが、この気球を使って地球軌道を周回する人工衛星を迎撃するという大胆なミッションに挑むことにしたのだ。標的となる衛星は、悪党が世界中の人々に怒りと争いを引き起こす有害な電波信号を発信するために利用しようとしているもの。これは2015年公開の映画『キングスマン:ザ・シークレット・サービス』の一幕である。
もちろん、人間が気球に乗って高空に上がり、そこからミサイルで人工衛星を狙うという展開は、あくまで映画的なフィクションだ。揺れる気球に吊るされた状態で手動で衛星を正確に撃ち抜くのは、現実的にはほぼ不可能に近い。さらに、敵の衛星を破壊する行為そのものが新たな問題を引き起こす恐れもある。人工衛星が破壊される際に発生する無数の破片がその一例だ。こうした破片は宇宙空間に静止しているのではなく、地球の周囲を超高速で飛び回り、敵衛星のみならず、味方の衛星にも衝突する可能性がある。いわば「誤爆」のような状況が発生しかねないのだ。
しかし、状況はまもなく変わるかもしれない。これまでには考えられなかった方法で、宇宙空間の敵衛星を破片を出さずに除去する新たな技術が登場しつつある。
アームで衛星を捕獲し、狙った地点へ共に落下
フランスの宇宙企業「ダーク」は最近、敵国が打ち上げた衛星を地球軌道上で捕捉し、そのまま海へと落下させて処分する特殊な無人宇宙船を開発中であることを明らかにした。
この無人宇宙船の外観は細長い円筒形をしており、注目すべきはその先端部に取り付けられた「奇妙な」部品である。それはまるでクレーンゲームのアームのような構造をしており、関節がついていて指のようにも見える。
この宇宙船は任務を受けると、レーダーなどを使って高度数百kmを周回する敵国の衛星に接近する。そして、アームを大きく開き、衛星本体をがっちりとつかむ。つかんだ後は、自身のロケットエンジンを作動させて減速を開始する。これにより、宇宙船と敵衛星の飛行速度が共に落ち、軌道高度も低下していく。最終的には地球の重力に引かれ、両者は海上へと落下する仕組みだ。
では、なぜ銃やレーザーで衛星を破壊するのではなく、わざわざ「つかんで落とす」という方式を採るのか。その理由は明確である。「宇宙ゴミ」、すなわち衛星の破片を生み出さないためだ。
質量が数百kgに達する衛星を物理的に破壊すれば、数百から数千個の破片が発生する。これらは銃弾の約8倍の速度で地球周辺を飛び交う宇宙ゴミとなる。これを減速させたり停止させたりする手段は、今の人類には存在しない。しかも、こうした破片は敵味方の区別なく、無差別に他の衛星に衝突して破壊する「漂う地雷」となってしまうのだ。だからこそ、衛星を破壊するのではなく、引きはがして軌道から除去するこの無人宇宙船の存在に注目が集まっているのである。

地上の発射台ではなく、航空機から出撃
もう一つの特徴は発射方式だ。通常の宇宙船のように地上の発射台から垂直に打ち上げられるのではなく、飛行機を利用して空から出撃するのだ。宇宙船は滑走路から離陸した大型航空機の機体に取り付けられ、高度数kmまで上昇する。そして機体から分離された後、自らのロケットエンジンに点火する。まるで空対空ミサイルのような形で発射される仕組みだ。ロケット推進力によってさらに高度数百kmまで上昇し、目標となる敵国の衛星に接近、アームを展開して捕獲する。
無人宇宙船を地上のロケット発射場ではなく、航空機から出撃させる方式を採用したのには理由がある。ダークは「ロケット発射施設を持たない国であっても、飛行機が離陸できる場所さえあれば、敵衛星に即応可能だ」とし、「出撃が決定されれば、数時間以内に無人宇宙船を地球軌道に投入できる」と説明している。
ダークはこの無人宇宙船の初の試験発射を2027年に実施する予定だ。この試験では、特定の衛星を実際に捕獲した後、周囲に島や陸地のない南太平洋の孤立海域に向けて落下させる訓練が行われる計画だ。
この技術が実現すれば、宇宙が戦場となる時代、いわゆる『スター・ウォーズ』の世界が現実に一歩近づくことになる。ダークは公式資料を通じて、「今回の技術は、宇宙防衛に対するヨーロッパの関心の高まりを示すものだ」と強調している。