上海の復旦大学の研究論文が「サイエンス」5日号に掲載
レアアース・テルル、可視光と赤外線を電気エネルギーに変換する特性を応用

中国の研究チームが、レアアースの一種であるテルルを用いた人工網膜によって、マウスおよびサルの視力回復に成功したとする研究成果を発表した。この技術は、将来的に人間の視覚障害の治療にも応用できる可能性があるとして注目されている。
香港「サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)」は8日、上海の復旦大学集積回路・マイクロナノ電子工学科の研究チームの論文が、科学誌「サイエンス」の5日号に掲載されたと報じた。
研究チームによると、視力を失ったネズミとサルに、テルルを動力源とする人工網膜を移植したところ、赤外線を感知する特別な能力、いわゆる「スーパー・ビジョン(超視力)」を実現した。
科学者たちは、この技術が人間の失明を治療する上で大きな希望になると期待している。
研究チームは、テルルを用いて生体適合性デバイスに用いるナノワイヤ・インプラントの製造方法を提示した。この装置は、遺伝的に失明したネズミとサルの視力を回復させると同時に、「見えない光」を見る能力を付与した。
銀白色の元素であるテルルは、銅の精製過程で得られる副産物であり、優れた光電特性を持っているため、補助装置なしでも可視光および赤外線を電気エネルギーに変換できる。
科学者たちは、テルルを網膜の光受容体細胞を代替する素材として活用し、光信号を電気信号に変換して脳に伝達することができると考えている。
研究チームは化学蒸着法を用いて、長さ150ナノメートルのテルル・ナノワイヤを作製した。その後、ナノワイヤの成長を制御して、網膜ナノスキャフォールドとして機能する「テルル・ナノワイヤ・ネットワーク(TeNWN)」を形成した。
映像と電気生理学的記録を通じて、移植された装置が視覚障害を持つネズミの瞳孔反射を回復させ、視覚野の神経活動を刺激することが確認された。
研究チームは、テルルを含む「TeNWNナノスキャフォールド」を視覚障害を持つマウスの眼球に固定する手術を実施し、合併症の発生もなく、手術の翌日から視力の回復が始まったと報告している。加えて、移植されたマウスは、近赤外線環境においても光源を正確に認識できる能力を獲得した。
さらに、通常のマウスと比較しても、視覚障害を持ちながらTeNWNを移植されたマウスは、パターン認識能力において優れた結果を示し、行動テストではLEDライトの位置を特定するなど、正常な視力を持つマウスに近い反応を示した。
とりわけ、近赤外線への反応に関するテストでは、TeNWNを移植されたマウスの反応率が、視覚障害を持つマウスだけでなく、正常視力のマウスをも上回った。
このナノ義眼は、サルに移植された際も安全性と生体適合性が確認され、正常視力を持つサルに移植した場合には、近赤外線に対する感度が高まった。
SCMPによると、今回の研究を行った復旦大学の研究チームは、2023年にも二酸化チタン・ナノワイヤ配列を用いた世界初の人工光受容体を開発した実績がある。
中国は、テルルの世界最大の生産国かつ消費国であり、テルルは半導体の熱電冷却装置や太陽電池、赤外線検出器などの分野で重要な原材料として使用されている。今後、戦略的新興産業におけるテルルの活用はさらに拡大すると見られ、中国の国際的な技術競争力においても重要な要素となっている。