
「北朝鮮版ワイキキ」と呼ばれる元山葛麻(ウォンサンカルマ)海岸観光地区が1日、北朝鮮の住民向けに開業したが、当面の間、成功の是非は明らかにされていない。金正恩朝鮮労働党総書記が外貨獲得のために力を注いで整備した元山葛麻海岸観光地区は、日本海(東海)側の名沙十里海岸に造成された観光地で、最大20万人の観光客を収容できるとされる。
金総書記は米国のドナルド・トランプ大統領とのシンガポール首脳会談の際、北朝鮮の海岸開発について言及し、トランプ大統領も関心を示した。トランプ大統領は2021年1月の退任直前に「金正恩は海岸における巨大なコンドミニアム開発の可能性を持っている」と述べ、元山葛麻海岸地区に直接言及した。しかし、北朝鮮の観光産業の「ビッグスパンダー」である中国人観光客が急減しているため、当面は北朝鮮の住民を中心に観光地が運営されると見られる。
中国人観光客が30万人近く急減、ロシア人観光客は黒海を選好
最近、北朝鮮を訪れる観光客数はロシア人が中国人を上回っている。昨年2月から北朝鮮はロシア人観光客を中心に限定的に観光を再開した。それでも、昨年、北朝鮮を訪れたロシア人観光客はわずか881人程度だったとされる。コロナ禍以前のロシア人の北朝鮮観光客数も年間約400人程度にすぎなかった。
一方、中国人観光客はコロナ禍以前には全外国人観光客の90%以上を占めていた。2019年には北朝鮮と中国の関係改善と観光需要の増加により、中国人観光客が前年比30〜50%増加し、26万〜30万人に達したとの推計もある。
『KDI北朝鮮経済レビュー』6月号に掲載された「中国・ロシアを対象とした北朝鮮のインバウンド観光に関する評価と展望」報告書は、北朝鮮のインバウンド観光活性化のためには、中国・ロシアに偏重した観光客誘致の努力を西側諸国にも拡大することが重要だと指摘した。
報告書は、移動の不便さと高コストのため、ロシア人観光客の誘致拡大は容易ではないと予想している。近隣の沿海地方における北朝鮮観光需要は低く、モスクワなど西部地域に住むロシア国民は北朝鮮を「あまりにも遠い場所」と認識しているという。
北朝鮮が心血を注いで整備した元山葛麻海岸観光地区は、海水浴を楽しめる期間が7〜8月の2カ月程度に限定される。この期間、西部地域に住むロシア国民の多くは、近くてインフラが北朝鮮より優れている黒海沿岸やトルコ、エジプトを旅行先に選ぶと報告書は指摘している。
上海〜平壌間の航空便正常化に注力、西側への開放度合いにも関心
北朝鮮が中国人観光客の誘致に向けた動きを見せている。米国の北朝鮮専門メディアNKニュースは、航路追跡サイトFlightradar24のデータ分析に基づき、ウクライナのアントノフ社製An-148型機(登録記号P-671)の高麗航空機が先月29日夜、平壌・順安国際空港を出発し、2時間の飛行後、午後10時に上海に着陸したと報じた。
この旅客機は翌30日午前0時47分頃に上海から北朝鮮に向けて出発し、午前2時10分に平壌に到着した。
北朝鮮の旅客機が上海を往復するのは、コロナ禍以降これが3回目となる。昨年12月には少人数の観光客や実業家などの移動のための試験運航が行われ、今年4月には平壌で開催されるマラソン大会に参加する外国人選手を輸送した。コロナ禍以前は毎週木曜日と土曜日に定期便が運航されていた。
北朝鮮はコロナ禍発生直後に国境を封鎖した。その後、2023年8月に平壌〜北京路線と平壌〜ウラジオストク路線、今年1月には平壌〜瀋陽路線の運航が順次再開された。
最近、北朝鮮が元山葛麻海岸観光地区の竣工式を行うなど観光産業活性化策を模索しており、中国との定期便が増加するのではないかとの見方がある。
これに先立ち、高麗航空は今年3月、ウェブサイトを通じて平壌〜上海路線の航空運賃を1,840元(約37,700円)と公表した。北朝鮮は中国の北京や瀋陽(しんよう)、ロシアのウラジオストクなど他の路線の運航を再開した際にも、直前に航空券価格を先行公開していた。
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