
2025年上半期、日本企業が買収側となった国内外のM&A(企業の合併・買収)金額が過去最高を更新した。買収総額は2,148億ドル(約31兆3,854億円)に達し、前年同期の3.6倍。1980年以降、半期ベースで史上最多の水準となった。
英金融情報会社LSEGによると、同期間の世界全体のM&A取引規模は1兆9,792億ドル(約289兆1,894億円)で、前年比約30%増加。その中で日本企業が占めた比率は10.9%に達し、1990年下半期以来、34年ぶりに2ケタ台を回復した。これはバブル期を除けば異例の水準であり、日本の存在感が再びグローバルM&A市場で高まっていることを意味する。
このM&Aの波を主導したのは、トヨタ自動車やNTTといった日本の伝統的な大企業だった。トヨタは約4兆7,000億円を投じて子会社のトヨタ自動織機をTOB(公開買付)により非上場化することを決定。NTTも約2兆円を使い、上場子会社NTTデータを完全子会社化した。
これまでの日本企業は、上場子会社を保持したままの株式持ち合いによる内部統制を続ける傾向が強かった。しかし近年、アクティビスト(物言う株主)を中心とした資本効率改善の圧力が強まる中で、企業統治構造の改革が加速している。
大和証券の荻野明彦社長は「欧米では上場企業の数がピークから約40%減少している」とし、「日本でも企業価値を高めるための再編がさらに進む」と指摘した。
さらに、非中核事業の切り離し=「カーブアウト(carve-out)」も活発化している。M&A専門調査会社レコフによると、2025年上半期の国内カーブアウト取引は約270件で、前年同期比30%増加。これは2008年以降、上半期としては17年ぶりの最多記録となる。
構造改革の動きは個別企業だけでなく、大企業全体で同時多発的に進行している。主要企業が保有する現金性資産は340兆円を超え、2008年以降3番目に多い水準。三井住友銀行など3メガバンクも、トヨタ自動織機の非上場化に向けて約2兆8,000億円を融資するなど、金融機関もM&Aの資金供給源として積極的に関与し始めている。
日本では、長らく滞っていた企業内部の資金が本格的に動き始めており、それに呼応する形で金融界も巻き込みながら、いわゆる「第2のM&Aブーム」が形成されつつあるとの見方が強まっている。
一方、世界最大のM&A市場である米国では、ドナルド・トランプ大統領が掲げる相互関税政策の影響を受け、一部のM&A案件が保留状態となっている。米系投資銀行の関係者は「市場の先行き不透明感が強まり、米国関連の取引は多くが凍結されている」と述べた。
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