「私は4年もかかるコンクリート建造物（データセンター）の建設を望んでいない。そこで新たな方法を開拓した。耐候性に優れたテントを設営し、その中にネットワークとGPUクラスターを構築するという方式だ。これにより、データセンターを迅速に建設でき、ハリケーンにも耐えうるテントとなる」
先日16日、YouTubeチャンネル「ディ・インフォメーション」で、マーク・ザッカーバーグ氏が言った言葉である。
マーク・ザッカーバーグ氏とは？
メタの創業者兼CEOである。1984年、アメリカ・ニューヨーク州に生まれ、2004年にハーバード大学在学中にFacebookを共同設立。後にFacebookは社名をメタ・プラットフォームズに変更。現在も同社の戦略的方向性と製品開発を主導している。
ザッカーバーグ氏の主張は、AIの核心インフラであるデータセンターを、従来の数年を要する建設工事ではなく、ハリケーンにも耐える特殊テント（組立式建造物）を用いて数ヶ月で迅速に建設するという革新的な方法を導入したというものである。
これは、AI競争において最も重要な資源であるコンピューティングパワー（GPUクラスター）を、他社よりもはるかに早く確保し、市場をリードするための攻撃的な戦略だ。
これは、AI競争で最も重要な資源であるコンピューティングパワー（GPUクラスター）を、他社よりもはるかに早く確保し、市場をリードするための攻撃的な戦略だ。
従来のデータセンターは、多数のサーバーや冷却装置などを収容するため、非常に精巧で頑丈な「コンクリート建造物」として建設されてきた。しかし、敷地の選定から設計、建築許可、建設まで通常2〜4年という長い期間を要する。
引用：Modular or Traditional Data Centers builds – AndCable(2025)
しかし、現代のAI時代においては、スピードが最も重要だ。目まぐるしく進化するAI技術の競争において、4年という期間は極めて長い。GoogleやOpenAIなどが次々と新しいAIモデルを発表する中で、データセンターの完成を待つ余裕はない。ザッカーバーグ氏はこの「ボトルネック」を解消する必要があると判断したのだ。
その解決策が、「耐候性テントを設営し、その中にネットワークとGPUクラスターを構築する」という方式である。ただし、実際のキャンプ用テントではなく、工場で事前に製作されたモジュール型構造物を比喩的に示している。巨大な倉庫や格納庫のようなこの構造物は、標準化された部品で作られ、現場で極めて迅速に組み立てられる。
GPUクラスターは、AIモデルの学習と運用に不可欠な核心設備であり、数千から数万個の高性能GPUを束ねることで、巨大なスーパーコンピューターとして機能するシステムだ。これはAIの「頭脳」とも言える最も重要な資産である。
この革新の目的はただ一つ、スピードである。データセンターを1年でも早く稼働させることで、より多くのGPUを確保・稼働させ、より優れたAIモデルをより早く訓練することが可能になる。新たなAIサービスをいち早くリリースし、より多くのユーザーを獲得することができる。技術標準をリードする決定的な優位性も生まれるだろう。ザッカーバーグ氏は、AIインフラ構築競争において「時間」を金で買うという強い意志を示している。
引用：Windows Central(2024)
現在、ビッグテック企業は最高のAIを作るために「GPU確保戦争」を繰り広げている。しかし、GPUをいくら大量に購入しても、それを設置・稼働させるデータセンターがなければ意味がない。ザッカーバーグ氏の方式は、GPUだけでなく、それを収容する「器」（データセンター）まで迅速に確保する戦略だ。メタは今年中にNVIDIAの高性能GPUを130万個以上確保する計画である。
ザッカーバーグ氏が明かした「テント型データセンター」は、短期間でコンピューティングパワーを確保するための前例のない攻撃的戦略である。実際、メタはオハイオ州の「プロメテウス・キャンパス」などで、張力ファブリック構造（アルミフレーム＋多層膜）にGPUラックを設置する「RDS（rapid-deployment structure）」方式を採用している。
この戦略は、2018年のテスラ「GA4テント工場危機突破策」を彷彿とさせる。当時、テスラは主力量産EVであるモデル3の生産目標を達成できず、企業存続の危機に瀕していた。テスラは従来の自動車メーカーとは異なり、既存工場の代わりに敷地内に大型テント（スプラング構造）を設置し、わずか数週間で新たな組立ライン（GA4）を構築した。当初は嘲笑されたこの「テント」製造ラインであったが、生産量を一気に20%以上引き上げることに成功した。
ザッカーバーグ氏は、データセンターに対する新たな視点も提示している。彼はデータセンターを「永久的な不動産」ではなく、「迅速に展開可能なITインフラ」と捉えている。この方式が成功すれば、今後のデータセンター建設の常識を覆す「ゲームチェンジャー」となり得る。
しかしながら、この戦略には限界があるとの指摘もある。ハリケーンに耐えうるとされてはいるが、数十年にわたる安定運用を保証できる耐久性を完全に担保できるかは不透明だ。予期せぬ気候変動、腐食、物理的セキュリティなどの面で、従来のコンクリート建造物よりも脆弱である可能性がある。
また、運用コストが増大する可能性もある。データセンターにおいては、サーバーの冷却機能と電力効率が極めて重要である。急造の組立式構造が、従来のデータセンター並みの精密な温湿度管理、電力分配、消火システムで運用できるかは疑問だ。テント構造は断熱性に劣るため、冷房負荷が高まり、電力使用効率（PUE）が悪化しやすい。AIクラスターはメガワット級の直接水冷システムを使用するため、PUEが0.1ポイント上昇するだけでも年間数千万ドルの電力コストが追加される。
さらに、予期せぬ規制が障壁となる可能性もある。新たな形態の建築物であるため、既存の建築基準法、消防法、環境規制などに抵触し、許認可の問題に直面する恐れがある。
ザッカーバーグ氏のテント型データセンター構想は非常に大胆だが、リスクの高い賭けに近い。しかし、無謀な賭けではなく、AI競争に勝つためにスピードが最も重要であるとの判断に基づき、慎重に計算された戦略である。メタのAI競争における切迫感がここにうかがえる。
注目の記事