
『ニューヨーク・タイムズ』(NYT)のコラムニスト、M・ゲッセン氏は13日付のコラムで、ドナルド・トランプ米大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領によるアラスカでの会談をめぐる非対称性のため、プーチン大統領は会談に向かう道中で笑みを浮かべている、と分析した。
トランプ大統領やウォロディミル・ゼレンスキー大統領を含む多くの西側諸国の指導者はウクライナ戦争の終結を望む一方、プーチン大統領はそうではないという。この根本的な非対称性が、交渉による平和達成の試みを頓挫させる原因だと指摘する。
戦争開始から3年半が経過しても、意義ある平和交渉が進んでいない主因でもある。
トランプ大統領は、経済的圧力を強めればプーチン大統領が戦争の中止を余儀なくされると主張する。
だが、これはバイデン政権やトランプ政権初期、さらにはオバマ政権が採用して失敗した戦略の踏襲にすぎない。
対ロ経済制裁がトランプ大統領の関税という形で現れても、政策の本質は変わらない。
制裁は、経済的圧力が政権を不安定にし、指導者に方針転換を迫る可能性があるという前提に立つ。
経済が困窮すれば大衆の不満やエリート層の怒りが高まり、クーデターの懸念が生じ、少なくとも指導者に政策変更を強いるはずだ――という理屈だ。
しかしロシアではこの理屈が当てはまらなかった。
制裁は課された国で抵抗を生む一方、一定の閾値を超えると、人々は生存に専念せざるを得ず、政治を考える余裕さえ奪われる。
西側市場へのアクセスを断たれ、資産を一部凍結された富裕層の在外ロシア人は、ドバイなどへ移住するかモスクワに戻った。
彼らはクーデターを企てるのではなく、残されたパイを巡ってより激しく競争しているだけだ。
何よりトランプ大統領は、人は皆カネで動くと仮定している。しかしプーチン大統領は富を好む一方で、権力をそれ以上に重んじていることを示してきた。
ロシアの勢力圏を広げ、国内で権力を恒久化し、国際的には他の指導者を威嚇することを目的としている。
トランプ大統領は、プーチン大統領との会談を通じて、プーチン大統領が望む――すなわち自らの権力を誇示する――機会をそのまま提供しているという事実に気づいていないようだ。
トランプ大統領はゼレンスキー大統領を介さずにプーチン大統領と会うことを決め、欧州連合を外し、追加の譲歩も示した。
それは、対立はロシアと米国の二国間でのみ起きているというプーチン大統領の主張を、ロシア国内に浸透させる効果を持つ。
交渉の場に入れば、プーチン大統領は望むものの多くを手にできる。
会談が決裂してもプーチン大統領は何も失わないが、成果を持ち帰れないトランプ大統領は面目を失う。
プーチン大統領は、ウクライナの東部撤退を条件とする期限付きの一時停戦(航空攻撃の停止を含む)を受け入れる可能性がある。
そのような停戦はウクライナに甚大な戦略的コストを課し、ロシアが「特別軍事作戦」と呼ぶ戦争は再び遠い出来事のように見えるだろう。
プーチン大統領を本気の交渉に向かわせうる唯一の手段は軍事的敗北の可能性だが、それが見えない限り、戦争が続くことに満足するはずだ。
プーチン大統領は、1700年に始まった大北方戦争(対スウェーデン戦争)が21年続いたと繰り返し強調し、長期戦への覚悟を示している。
トランプ大統領は、過去に失敗した古い政策に依存し、同じ行動をより大きなショーとして繰り返しているにすぎない。
注目の記事