
トランプ政権がインド産製品に対し50%の高関税を課したことで、繊維をはじめとする主要輸出産業が事実上「オールストップ」の危機に直面している。雇用や経済成長にも警戒信号がともった。
米紙『ニューヨーク・タイムズ(NYT)』と英紙『ガーディアン』が27日(現地時間)に伝えたところによると、世界最大の繊維・衣料輸出国であるインド業界は「現在は完全な停止状態にある」と述べ、関税ショックを訴えた。米国のバイヤーらは関税の影響を見越して事前に生地や衣料の在庫を確保したが、その後の新規発注はほぼ中断されているという。
インド繊維産業連盟のチャンドリマ・チャタジー事務総長は「米国が関税を課すと聞き、事実かどうか二度も確認せざるを得なかった」とし、「残念なのは、米国とインドがこれまで非常に良好な貿易関係を築いてきたことだ」と語った。さらに「米国はインドの最大の輸出市場であると同時に、最大の綿花供給国でもあった」と強調した。
トランプ政権はインドに対する関税率を既存の25%から追加で25%上乗せし、最終的に50%とした。米国はロシアへの圧力の一環として、ロシア産原油を購入する国々に二次制裁を科すと警告しており、その一環として今回の措置が発動された。
今回の措置により、インド製品に対する米国の関税率は中国より16ポイント、東南アジア諸国の大半より31ポイント、韓国より35ポイントも高くなった。
衣料品輸出振興委員会(AEPC)のミティレシュワール・タクール氏は「インド企業はバングラデシュ、ベトナム、カンボジアに比べて30%のコスト劣勢に立たされている。これは地震級の衝撃だ」と強調した。たとえ関税が緩和されたとしても、中国、ベトナム、メキシコ、トルコに加え、パキスタン、ネパール、グアテマラ、ケニアまでがすでに市場を押さえており、インドの再参入は容易ではないとの見方が広がっている。
GDP・雇用に直撃…ロシア産原油依存は続く
米国はインドにとって最大の輸出市場であり、年間865億ドル(約12兆7,100億7,000万円)規模の対米輸出が行われている。そのうち約3分の2が今回の50%関税の対象となり、インドの雇用と経済成長に直接的な打撃が予想される。
デリーのシンクタンクGTRIは、繊維や宝飾品など主要産業の輸出額が602億ドル(約8兆8,646億4,000万円)から186億ドル(約2兆7,352億3,000万円)へと70%減少し、対米輸出全体も43%減少する可能性があると分析した。経済学者らは、今回の関税によりインドの今年の国内総生産(GDP)成長率が最大1ポイント低下するとの見通しを示している。
失業への懸念も高まっている。インドの6月の失業率は全体で5.6%、都市部では7.1%に達した。専門家は、対米輸出が急減すれば数百万人規模の雇用が失われる可能性があると警告している。
これを受け、インド政府は今後6年間で総額280億ドル(約4兆1,132億円)規模の輸出支援パッケージを発表した。ナレンドラ・モディ首相は、年間1,300億ドル(約19兆1,074億円)規模の対米貿易が縮小する恐れが強まったことから、日本や中国など新たな貿易パートナーの開拓に乗り出している。
一方で、インドは米国の圧力にもかかわらずロシア産原油への依存を続けている。ウクライナ戦争以前には1%未満だったロシア産原油の比率は、現在では40%にまで拡大した。ビンヤイ・クマール駐米インド大使は「ルーブルとルピーでの決済システムを整え、ドルを使う必要はない。国益とエネルギー安全保障のためにロシア産原油の購入を継続する」と強調した。
専門家は、インドがロシア産原油の購入によってこれまでに170億ドル(約2兆4,990億円)を節約してきた一方、対米輸出の減少によって年間370億ドル(約5兆4,353億円)の損失が発生しかねず、結局は利益が相殺される恐れがあると警告している。
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