ドナルド・トランプ政権は、アメリカ内で急騰する住宅価格問題への対策として「国家住宅非常事態(Housing Emergency)」の宣言を検討している。議会を経ず大統領権限により規制緩和とコスト削減を実施し、住宅供給の拡大を目指す。2026年中間選挙を見据え、住宅問題を最重要政策課題に掲げる狙いもあると専門家は分析する。
アメリカのスコット・ベセント財務長官は1日(現地時間)、「ロイター」や「ワシントン・エグザミナー」とのインタビューで、「トランプ大統領が今秋、国家住宅非常事態を宣言する可能性がある」と述べた。現状を「総力を挙げて対処すべき危機」と位置付け、数週間以内に新たな措置を発表すると語った。

アメリカでは国家非常事態宣言により、大統領は議会の承認を経ずに幅広い行政措置を講じることが可能である。トランプ大統領はこれまでに、移民、貿易、ワシントンD.C.の治安問題などを理由に9回の非常事態宣言を発出している。
ホワイトハウスが非常事態宣言を検討している背景には、深刻な住宅供給不足と高金利による取引停滞がある。新型コロナウイルスの流行期、多くのアメリカ国民が年2~3%台の過去最低水準の金利で住宅ローンを組み住宅を購入した。しかしその後、連邦準備制度(FRB)がインフレ抑制のために急激な利上げを実施した結果、新規住宅ローン金利は6~7%台に急騰し、既存住宅所有者が転居を試みても売却が困難な状況に陥っている。
新たに住宅を購入する際は、より高い金利で借り換える必要があるためである。結果として「モーゲージ金利ロックイン効果」が生じ、アメリカでは買い手は多いものの売りに出される物件が極端に不足する深刻な供給不足となっている。
トランプ政権はこの問題解決に向け、多角的なアプローチを検討している。ベセント長官は主に三つの方策を提示している。まず、住宅供給拡大策として、州や地方自治体ごとに異なる建築・ゾーニング規制を連邦レベルで標準化し、許認可手続きを簡素化することで新規住宅建設を促進する。連邦政府所有地を住宅開発用に開放する案も浮上している。
二つ目は費用削減である。住宅購入時の諸経費(closing costs)の軽減及び、建築資材に対する関税の一時的な免除を検討している。これは木材、鉄鋼、銅などに対して高率の関税が課されてきた既存政策の一部修正を意味する。
最後はFRBへの圧力である。トランプ大統領はFRBの高金利政策が住宅市場を悪化させたと繰り返し主張し、利下げを要求している。ベセント長官も「金利が下がり始めれば不動産取引や住宅販売は増加するだろう」とし、FRBに政策の転換を促した。
こうした包括的な政策推進は2026年中間選挙を見据えた動きとみられる。ベセント長官は「住宅購入力の確保が共和党の中間選挙プラットフォームの中核となる」と述べた。住宅問題はアメリカの有権者の最大の関心事であり、2024年大統領選においても、当時副大統領であったカマラ・ハリス氏が主要公約として不動産価格問題を掲げた。トランプ政権が議会との長期にわたる立法闘争を回避し、「非常事態宣言」という強硬策を採用した理由はここにある。
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