「あなたの母親は『安楽死』を選びました」たった一行のメッセージ…アイルランド女性の涙
精神疾患を抱えた50代女性、家族に知らせずスイスで「安楽死」
家族「死後、メッセージで通知を受けて初めて知った」

アイルランドで精神疾患の既往がある58歳の女性が、家族に知らせないままスイスで安楽死を選んだことが分かり、波紋を呼んでいる。遺族は、安楽死を支援した団体から事前に同意を求める連絡がなく、死後にメッセージアプリを通じて通知を受けたと怒りをあらわにしている。
英字紙「アイリッシュ・インディペンデント」や米誌「ピープル」によると、アイルランド人女性モリーン・スローさん(58)は先月初めに「友人とリトアニアへ旅行に行く」と家族に告げて出国したが、実際に向かったのはスイスの安楽死支援団体だった。スローさんは一部の友人にだけ本当の目的を打ち明けていたという。
スローさんの娘メーガン・ロイヤルさんは、スローさんの旅行直後にスローさんの友人から「あなたのお母さんはスイスにいる。秘密にしてほしいと言われたが、知るべきだと思った。お母さんは安楽死を選ぶつもりだ」と知らされた。ロイヤルさんと家族はスローさんに帰国を求め、スローさんからも「帰る」との返答を受けて安堵した。しかし翌日、ロイヤルさんのスマートフォンに届いたメッセージに家族は打ちのめされた。
「あなたのお母様は亡くなりました。6~8週間後に遺骨をお届けします。」
ロイヤルさんは「メッセージを見た瞬間、赤ん坊を抱きしめながら泣き崩れ、世界が終わったと思った」と語っている。

「自死支援団体、たった一行のメッセージで死亡通知」
調べの結果、スローさんがスイスの安楽死支援団体「ペガソス」で安楽死手続きを行い、多額の費用を支払っていたことが分かった。ロイヤルさんによると、スローさんは知的で献身的な人物だったが、昨年に叔母2人を亡くした後、精神的に不安定になっていたという。
ロイヤルさんは「母がまったく苦しんでいなかったわけでないが、母の苦しみは自ら命を絶つほどのものではなかった」と述べ、「母は安楽死が必要なほど治療不可能な病気ではなかった。十分に生きることができたはずだった」と強調した。
ペガソス側は「本人は自死前に精神状態の評価を受け、慢性的な耐えがたい痛みに苦しんでいると繰り返し訴えていた」と説明した。また「娘に電子メールで通知し、同意の返信を受け取った」と主張している。しかしロイヤルさんは「母が私を装ってメールアカウントを作った可能性がある」と反論し、「WhatsAppで連絡先を知っていながら、なぜ電話をしなかったのか」と疑問を呈した。
ロイヤルさんの遺族は「ペガソスは遺族への通知と同意確認を怠った」として、スイス当局に調査を求めている。遺骨は先月半ばに家族のもとに戻り、葬儀を執り行ったという。
精神疾患患者の「自死」許可を巡る論争
スイスやオランダ、ベルギー、米国の一部の州などでは、回復の見込みがなく耐え難い苦痛にある患者が選ぶ「尊厳死」が合法とされている。スイスでは外国人の利用も可能で、ペガソスなど複数の団体が国外の患者にもサービスを提供している。
ただし「精神疾患」を理由とした自死を認めるかどうかは、各国で議論が続いている。スイスでは2006年の連邦裁判所の判断を根拠に事実上容認されており、オランダやカナダでも同様の動きが進んでいる。一方、多くの国では精神疾患患者や未成年者を対象外としており、カナダでも法改正をめぐり激しい論争が続いている。
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