
米政治メディアのポリティコは8日、ロシア政府が西側のメッセンジャーアプリに対抗して開発した「マックス(MAX)」に国民監視機能を搭載したことで、「ポケットスパイ」論争が巻き起こっていると報じた。
海外メディア『ニューシス』によると、クレムリンが全ての新型携帯電話に、メッセンジャーアプリであるマックスの搭載を義務付け、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が国民統制の新たな手段としてこのアプリを利用しているとの指摘があるという。
ポリティコは、ロシア軍がウクライナ東部へ進軍する中、クレムリンが国内における国民統制の戦線を拡大していると伝えた。
ロシア政府は、政府側が利用者データにアクセスできる体制を整えると同時に、国民に対してインターネット上で孤立するようなメッセンジャーアプリの使用を強制している。
「マックス」には暗号化機能が搭載されておらず、チャット履歴や連絡先、写真、位置情報といった個人情報に当局が容易にアクセスできるため、個人情報を保護できないという点から中国のWeChat(微信)と比較されているという。
ロシアのデジタル権利保護団体で代表を務めるミハイル・クリマレフ氏は「アプリ開発者は、実質的に全ての情報を政府に委ねようとしている」と述べた。
マックスに登録するには、ロシアまたはベラルーシの電話番号と政府発行の身分証明書が必要とされる。
クリマレフ氏は、ロシア連邦保安庁(FSB)が利用者の行動全てを監視できると語った。
マックスの利用者数は、6月初めには100万人だったのに対し、9月には3,000万人に増加している。
ロシアで人気が高いメッセンジャーアプリのWhatsApp(約9,600万人)やTelegram(約9,000万人)と比べれば、まだ利用者は少ない。
プーチン大統領は6月、「国家メッセンジャー」開発法案に署名し、IT企業VKがその開発を担うこととなった。
ポリティコは、同社について、国営ガス会社のガスプロムとプーチン大統領の側近であるユーリー・コワルチュク氏が実質的に支配していると報じた。
さらに同社は、プーチン大統領の補佐官であるセルゲイ・キリエンコ氏の息子が運営しており、両者は米国の制裁対象となっている。
9月初め以降、ロシアで販売される全ての新規携帯電話には、マックスのプリインストールが義務化されている。
その一方で、ポリティコは、ロシアの通信監督庁ロスコムナゾールが、今年夏からWhatsAppとTelegramの通話を遮断し始めたと報道。
政府はこの機能について、詐欺師やテロリストから利用者を守るための措置だと説明しているが、米Meta所有のWhatsAppは「国民の安全な通信権利を侵害する試みだ」と非難している。
独立系メディアによれば、公務員や銀行員、病院職員などがマックスへの切り替えを強要されているという。
ポリティコは、マックスは未だ開発段階にあるものの、WeChat同様に政府や銀行、商業サービスなどへ拡大するよう宣伝されていると報じた。
さらに、マックスについて、プーチン大統領のインターネット統制の野望を実現する最新の施策だと指摘している。
プーチン大統領は2019年、外国の影響力から守られた「インターネット主権」構築のための法律に署名した。
ロシアがウクライナを全面的に侵攻した2022年以降、クレムリンはオンライン上の反戦活動を厳しく弾圧している。
数千のウェブサイトが遮断され、今年夏には、ロシア政府が故アレクセイ・ナワリヌイ氏の反腐敗財団やロシアでLGBT運動と称される団体、さらにはMetaに関連する情報などを「過激主義」として、コンテンツ検索を違法化した。
また、ロシア国民が身元確認や検閲回避に使用するVPNも違法となっている。
インターネット権利団体RKSグローバルの共同創設者であるサルキス・ダルビニャン氏は、マックスについて、中国のファイアウォールに似たシステムの構築を目的とするクレムリンの試みだと説明。
ダルビニャン氏は、「公共プラットフォームでの行動のみならず、市民間のコミュニケーションも統制しようとしている」と述べ、「ポケットの中のスパイ」とも言えると語っている。
ロシアまたはベラルーシの電話番号が要求されるため、海外からのアクセスは困難であり、その他の通信手段を政府が制限していることで、国内居住者は国外の親族や連絡先から隔絶される傾向がある。
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