
ロシアのドローンが近年、ポーランドやルーマニアといった北大西洋条約機構(NATO)加盟国の領空を相次いで侵したことについて、ウラジーミル・プーチン露大統領が意図的に牽制をかけたとの分析が出ている。戦争初期にドローン戦で苦戦していたロシアが、生産力の拡大と技術向上を足がかりに、ウクライナを超えてNATO圏まで脅威を拡大しているという指摘だ。
ポーランドのラドスワフ・シコルスキ外相は15日(現地時間)、英ガーディアンのインタビューで今回の領空侵入について「ロシアが全面戦争を誘発せずにNATOの対応を試す行為だ」と述べ、「ポーランド空域に侵入したドローンは弾薬を積載可能な機種であったが、爆薬は積まれていなかった」と指摘した。この発言は、ドナルド・トランプ米大統領が「偶発的な侵入の可能性」を示唆した発言への反論とも受け取られている。
先月9〜10日にかけ、ロシアのドローンは計19回にわたりポーランド領空を侵犯した。これに対しポーランド空軍のF-16やオランダ空軍のF-35が緊急発進し、うち3〜4機を撃墜したと伝えられる。続いて13日にはルーマニア領空でもロシア製無人機が確認され、ルーマニア空軍機2機が出動された。ルーマニア国防省は、改良型の「ゲラン2」が領空上空で約50分間飛行したと発表した。ゲラン2は、イラン製自爆ドローン「シャヘド136」をロシア側が改良した機種とされる。
連続するNATO領空侵入は、プーチン政権が技術蓄積を背景に「量」で圧倒する戦術へ本格的に舵を切ったことを示しているとの分析がある。ニューヨーク・タイムズ(NYT)がウクライナ空軍の発表を集計したデータによれば、ロシアのドローン投入数は昨年9月に初めて月間1,000機を超えて以降急増したという。今年に入ってからは既に3万4,000機以上が投入され、前年同期比で約9倍に達している。今月初めには1夜で自爆型とおとりドローン約800機が国境を越えたと報じられた。
専門家は、プーチン政権が複数の主要生産拠点を中心に供給量を急増させ、公的機関や民間工場、学生や外国人労働者まで動員して製造ラインを拡大したと指摘する。ある試算では、ロシアはシャヘド136系の改良型ドローンを年約3万機生産でき、2026年までに倍増する可能性があるという。
NYTは、ロシアのドローンが誘導精度や電子妨害(ジャミング)耐性、弾頭の多様化で技術的にも進化しており、戦術面でも大きな変化が見られると分析する。ドローンを波のように投入し、防空の注意をそらす手法や、発泡スチロールや合板で作ったおとりドローンを大量に混ぜることで実機と識別しにくくする戦法が確認されている。飛行経路も変化し、ウクライナ防空隊が配置された開けた平原を避けて、河川や森林をたどりながら都市部に侵入するケースが増えているという。
ウクライナ国家戦略研究所の研究員ミコラ・ビエリエスコフ氏は、「ロシアのドローンは群を成して飛ぶようになっており、プログラム的な運用が進んでいる。重要なのは規模であり、これは戦術と誘導方式の変化を意味する」と指摘した。「当初はロシアのドローンの侵入が月数百件だったが、現在は5,000〜6,000件に達しており、今後さらに多くの機体が防空網を突破してくるだろう」と警鐘を鳴らす。
ロシアの低コスト大量投入戦術は、NATO側の防空コスト構造を悪化させている。高価なミサイルや戦闘機で一機ずつ迎撃する従来方式では弾薬や運用コストが膨らむ一方、根本的解決には電子的妨害や迎撃ドローンと組み合わせた多層的な防空網の構築が必要との見方が強まっている。
カーネギー国際平和財団の上級研究員マイケル・コフマン氏は、数か月の間にロシアが精鋭のドローン部隊を配備し、運用の体系化を進めたことでウクライナのドローン優位が相対的に弱まったと分析した。また「ロシアとウクライナ両者の作戦におけるドローンの使い方が、新たな転換点に到達した」と評している。
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