
北朝鮮の金正恩国務委員長が「非核化の目標放棄」を条件に米国との対話を提案したのに対し、ホワイトハウスは「完全な非核化」を改めて強調し、事実上これを拒否した。両者の立場は平行線をたどったが、これは対話の決裂ではなく、むしろ北米対話再開を前にした主導権争いの幕開けとみられる。
ホワイトハウス関係者は22日(現地時間)、書面で「トランプ大統領は政権1期目に金正恩委員長と3度の歴史的首脳会談を行い、朝鮮半島の安定化に貢献した」と述べたうえで、「完全な非核化の実現に向け、金委員長との対話に引き続き前向きだ」と強調した。この発表は、金委員長が「非核化放棄」を米朝対話の条件として提示した翌日に出されたものだが、北朝鮮が期待し、韓国が懸念していたほど踏み込んだ内容ではなかった。
北朝鮮の労働新聞によると、金委員長は21日の最高人民会議での演説で「もし米国が非現実的な非核化への執着を捨て、現実を認めた上で我々との真の平和共存を望むなら、我々も米国と対立する理由はない」と述べた。さらに「私は個人的にはまだ米大統領のトランプ氏に対して良い印象を持っている」と明かしたが、これは米国が非核化要求を放棄すれば対話に応じるというメッセージだった。これを受け、トランプ政権が米国の非核化という既存の対北政策目標を修正するのではないかという懸念が浮上した。

北米対話再開への意欲が強いため、交渉のために金委員長の要求を一時的に受け入れる可能性があるからだ。トランプ大統領はすでに何度も北朝鮮を「核保有国(Nuclear power)」と呼び、北朝鮮の核保有を既成事実化している点もこの懸念に拍車をかけた。
しかし、ホワイトハウスは金委員長の要求を受け入れるのではなく、完全な非核化という既存の原則を再確認した。トランプ政権が北米対話再開を望んでいるのは事実だが、最初から北朝鮮に主導権を譲るつもりはないという意思が反映されているようだ。対北政策の最終目標が朝鮮半島の完全な非核化という韓米共同の目標をそのまま維持しているという前向きな信号と見られる。
ただし、今回のコメントはトランプ大統領本人の発言ではないため、今後の展開次第で修正される可能性も否定できない。北朝鮮の非核化は米朝対話の核心課題であり、再開に向けた交渉過程で再び大きな争点となるだろう。北朝鮮が強硬姿勢を崩さず、米国が説得に苦慮する状況が続けば、トランプ大統領が新たな決断を下す可能性も残されている。

トランプ大統領が北朝鮮の非核化という長期的目標と、北米対話再開という短期的目標のどちらに重点を置くかにかかっている。トランプ大統領は金委員長との過去の会談を通じて個人的な好意を持っていることで知られており、この観点が影響を及ぼす懸念もある。
まだ金委員長の発言に関してトランプ大統領は何の反応も示していないが、23日の国際連合総会の演説で北朝鮮に言及するかどうかが注目される。今回の演説は政権1期目中の2020年以来5年ぶりで、ホワイトハウス復帰後は初めてとなる。
トランプ大統領は2017年の初演説では北朝鮮が挑発を続ける場合、「北朝鮮を完全に破壊(totally destroy)せざるを得ない」と警告し、北米首脳会談が行われた2018年と2019年には比較的好意的な立場を示した。2020年の演説では北朝鮮に言及しなかった。
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