
中国チベット自治区のヒマラヤ高地で、カナダ発のアウトドアブランド「アークテリクス」が花火ショーを実施し、自然環境の破壊につながりかねないとして批判が高まっている。現地当局は調査を開始し、アークテリクスとイベントを総括した中国人アーティスト蔡國強(ツァイ・グオチャン)が謝罪に追い込まれた。
香港の英字紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)」やシンガポール紙「聯合早報」によると、アークテリクスは今月19日、チベット自治区シガツェ地域(標高4600~5000メートル)で花火の専門家である蔡國強氏と協力し、「昇龍」と題した花火ショーを開催した。
花火はチベットの五色旗を思わせる色合いで演出され、天に昇る龍を表現した。さらに山の稜線に沿ってオレンジや白の花火が次々と打ち上がり、壮大な光景が広がった。
しかし映像が公開されると、中国のネット上では「繊細な高地生態系が損なわれかねない」との懸念が急速に広がった。一部の利用者は「花火を打ち上げたのではなく、山を爆破したに等しい」と非難した。

主催者は「事前に許可を得た合法的なイベント」であり、使用した色素はすべて生分解性だと説明した。牧畜民の家畜を避難させ、小動物が区域外に移動できるよう措置を講じたほか、残留物は清掃して植生も復元すると強調した。
それでも、環境保護や持続可能性を掲げてきたブランドのイメージと矛盾するとの批判は収まらず、当初どのように地方政府がこの企画を承認したのか疑問の声も相次いだ。
批判が収まらない中、21日にはチベット自治区シガツェ市当局は「重大な事案と受け止め、調査チームを派遣した」と発表し、調査結果に応じて法的措置を取る方針を示した。
アークテリクスはプロモーション映像を削除したうえで、中国版SNS「微博(ウェイボー)」に謝罪文を掲載した。2008年の北京五輪開会式花火を手掛けた蔡國強氏も謝罪の意を表明した。
ただ、発表された謝罪文は中国語版と英語版で内容に違いがあり、さらなる批判を招いた。中国語版では「大衆の批判を通じ、芸術表現の評価には専門性が必要であり、自然への謙虚さと敬意が欠かせないと学んだ」とした一方、英語版は「アーティストや中国のチームと協議を続けており、今後同様の事態を避けるために業務の進め方を調整している」と記した。現地メディアは「責任回避の姿勢だ」と指摘している。
中国共産党機関紙「人民日報」はSNS上のコメントで「花火が消えた後に残るべきは謝罪だけではなく、環境保護の行動だ」と批判した。国営の新華社通信も「徹底的な調査が必要だ」と論じた。
アークテリクスは1991年にカナダで設立され、2019年に中国のスポーツブランド大手アンタ・グループが親会社のフィンランド企業アメア・スポーツを買収し傘下に収めている。

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