
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、直接の銃撃を伴わずとも、これまで戦火から離れていた数百万の欧州市民にウクライナ戦争の現実を体感させた。
デンマークでは先週、軍事施設や主要空港周辺などで不審なドローン活動が相次ぎ、空港が一時閉鎖される事態となった。
デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は「欧州では、より暴力的かつ頻発するハイブリッド攻撃が新たな現実になるだろう」と述べた。ただし、ロシアをヨーロッパの脅威として名指ししながらも、攻撃主体として直接指摘することは避けた。
こうした、責任の所在を特定しにくく複合的な攻撃手段が用いられる「ハイブリッド戦争」の拡大によって、プーチン大統領は戦争の恐怖を欧州の門前まで押し寄せることに成功したと、米CNNは27日(現地時間)に報じた。
今月10日、約19機のロシア製ドローンがポーランド領空を侵犯したことを皮切りに、デンマークをはじめ欧州各地で正体不明のドローンが相次いで出現し、「ドローン恐怖」が広がった。
デンマークでは3日間にわたり空港が閉鎖され、さらにデンマークの海岸で信号を切って停泊するロシア軍艦まで確認されたが、デンマーク当局はいまだ攻撃の背後関係を特定していない。
フレデリクセン首相は「拙速かつ誤った判断は危険を招く」として慎重姿勢を崩さず、デンマーク警察の責任者も「デンマーク国内で破壊工作のリスクが高まっている」と述べるにとどまった。
CNNは、西側当局が「ロシアを主犯と断定すれば、むしろロシアの狙う不信と混乱を助長しかねない」という逆説に直面していると分析した。
フレデリクセン首相もまた、確認されていないドローン攻撃主体の動機について「国民が当局を信頼しなくなるよう仕向けることだ」と指摘している。

最近のハイブリッド戦争による混乱は、すでに防衛予算に余裕のない欧州に新たな高コスト課題を突きつけている。
ひとつは、ドローンやサイバー攻撃に対応するインフラの強靱化向上、もうひとつは、ロシアのドローンや戦闘機に対抗するための、広域かつ常時稼働する防空網の整備だ。
プラスチック製の安価な「シャヘド」ドローン(1機数百万円規模)を迎撃するのに、数千万円規模のミサイルを撃ち込む現状は「持続不可能」との見方が出ている。
ただしCNNは、ハイブリッド戦争はプーチン大統領にとっても「より大規模な紛争に発展する不確実性」を高めるリスク要因になると指摘する。ロシアが雇用した破壊工作員らの行為で民間人被害が発生すれば、北大西洋条約機構(NATO)が強硬な対応に踏み切る可能性もある。
さらに、ドナルド・トランプ米大統領の予測不能な言動は、緊張が高まる状況下で「過剰反応」か「無反応」か、いずれのリスクも含んでいる。
しかし当面は、ハイブリッド戦争は欧州市民に「各国政府が行うウクライナ支援のコスト」を肌で実感させているとCNNは解説する。
CNNは「この1か月間、欧州は犯人特定が困難で、安価な解決策もない新たな高額の不安を背負うことになった」とし、「わずか数週間の混乱だけでも、プーチン大統領にとっては戦争4年目に十分な成果を上げたと言える」と評価した。
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