
軍用機と衛星に追い詰められていた軍用気球が、再び各国軍の戦場兵器として注目を集めていると、英国の時事週刊誌「エコノミスト」が29日に報じた。
米軍は昨年の隔年訓練「バリアント・シールド」において、成層圏で電磁スペクトルセンサーを搭載した気球を浮かせ、新型精密誘導ミサイルの移動中艦船への誘導実験を実施した。今年は、偵察・通信用の低高度エアロスタット(aerostat)気球の改良に向け、42億ドル(約6,193億7,496万円)規模の契約も締結している。
ポーランドは、ロシアのミサイルおよび軍用機探知のための早期警戒レーダー網構築の一環として、エアロスタット4機の導入を決定した。イスラエルはレバノン国境地帯にロケット探知用気球を配備し、ウクライナはドローン(無人機)の長距離飛行の中継器として気球を活用している。
気球の軍事利用は18世紀後半に遡る。フランスのモンゴルフィエ兄弟による熱気球発明直後、フランス革命軍は水素気球を用いてオーストリア軍を偵察した。米国の南北戦争や普仏戦争でも偵察・通信に使用され、第一次世界大戦では敵陣を観測する手段として活用された。しかし、第二次世界大戦後は航空機と衛星に取って代わられ、事実上姿を消した。

近年、軍用気球が再注目を集める理由は、そのコスト効率の高さにある。エアロスタットは高度3~5kmで運用される係留式飛行船で、低空を飛行するミサイルやドローンの探知に効果的だ。空中早期警戒管制機(AWACS)よりも低コストで、数週間にわたって任務を遂行できる。ただし、2015年には米国で係留索が切れた軍用エアロスタットが、予告なしに150km漂流し、住民を驚かせた事例もある。
高度24~37kmを漂う高高度気球は、さらに高い戦略的価値を有する。2023年に米国上空に侵入した中国の大型気球が戦闘機により撃墜された事件がその代表例である。米国はこれを偵察気球とみなしたが、中国は科学研究用と主張している。また、中国は最近、台湾海峡においても同様の気球を100回以上飛ばしたとされる。高高度気球は、衛星よりも地上に近いため通信信号の捕捉や精密な撮影に優れ、ほとんど熱や音を発さないため探知することが困難である。
米軍も高高度気球の活用を拡大中だ。標的識別や砲弾誘導、さらには敵陣深くへのドローン投入ネットワークの一部として検討している。ただし、強風下での操縦性や電力供給の限界は依然として課題である。衛星が空を覆い、ドローンが戦場を駆け巡る時代において、軍用気球の復活は驚くべき現象だとエコノミストは評している。

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