
2015年以来、国内で10年ぶりに1年間で2人のノーベル賞受賞者が誕生し、日本の「科学技術立国」としての歩みに再び注目が集まっている。
今月6日には大阪大学の坂口志文特任教授(74)がノーベル生理学・医学賞を受賞し、続く8日には京都大学の北川進特別教授(74)が「金属有機構造体(MOF)」の研究でノーベル化学賞に輝いた。
国内メディアは相次ぐ受賞を快挙として報じる一方で、若手研究者の減少や優れた論文の数の減少を懸念する声も上がっている。

「知的好奇心」で研究を続けた受賞者たち…科学は短期間で成果出ず
読売新聞は9日の社説で、「同年に日本人2人がノーベル賞受賞するのは2015年以来で喜ばしい」と評価した。また、「坂口教授も北川教授も、独創的な研究のため当初は批判を受けたが、知的好奇心を原動力に研究を続け、ついに世界最高の栄誉を手にした」と伝えた。さらに「科学は短期間で成果が出るとは限らず、研究段階で意味が見えなくても後に応用される例は少なくない」と付け加えた。
日本経済新聞(日経)も同日、北川教授のノーベル化学賞受賞について「日本が誇る化学研究の系譜に新たな金字塔が加わった」と論評した。歴代の日本人化学賞受賞者が学問と産業の連携に注力してきたことに触れ、「産学協力こそが日本の化学研究力の源泉だ」と指摘した。
北川教授は2019年にノーベル化学賞を受けた吉野彰博士と電話で言葉を交わし、「私は大学で、吉野さんは産業界で活動している。うまくバランスが取れているのではないか」と語った。吉野博士は京都大学を卒業後、化学メーカーの旭化成に入社し、リチウムイオン電池の研究を行った人物として知られている。
2000年以降、平均で年1人の受賞ペース…学術成果は20年から30年後に評価
今年の受賞者2人を含め、日本人のノーベル賞受賞者数は合計30人となった。このうち3人は後に米国籍を取得しているが、いずれも日本生まれで日本の大学を卒業している。また、原爆被爆者団体が昨年ノーベル平和賞を受賞しており、日本のノーベル受賞団体は1つとなっている。
ノーベル科学賞受賞者を分野別にみると、物理学賞が12人、化学賞が9人、生理学・医学賞が6人で、計27人中22人が2000年以降に受賞している。近年は平均で年1人のペースで受賞してきている。日経は「2000年以降、日本の科学者が次々とノーベル賞を受賞する『量産時代』に入った」と報じ、21世紀以降では米国に次ぐ受賞数だと伝えている。
日経によると、21世紀に入って日本の科学者の受賞が急増した背景には、「太平洋戦争後、日本が科学技術を復興の柱と位置付けた」ことがあるという。受賞者の多くは40歳前後で成果を上げ、20年から30年後にノーベル賞を受賞した。つまり、日本が世界第2位の経済大国として発展した1970年から1990年代に積み上げた基礎科学研究の成果が、今になって花開いたと言える。
さらに日経は、1980年代には日本の家電製品が世界市場を席巻する一方で、西側諸国から「日本の基礎科学は弱い」との批判が上がったことを指摘した。その後、1995年に科学技術振興を国家の責務とする「科学技術基本法」が制定された。
第1期(2000年まで)には17兆円、第2期と第3期にもそれぞれ20兆円超の国費が投じられたが、2011年に終わった第3期以降は、官主導のトップダウン型研究が増え、研究力の低下を招いたとみられている。

日本、主要論文ランキング13位に後退…研究支援への不満も
科学分野でノーベル賞受賞者が相次ぐ一方で、日本国内では「この勢いが今後も続くとは限らない」との懸念も広がっている。
東京新聞は「日本では若手研究者が減少し、世界に影響を与える有力論文も増えていない」と指摘した。政府が海外人材の誘致や国際研究者交流を進めているものの、「成果はまだ見えていない」と伝えた。
特にメディアは、自然科学分野での論文評価の低下に注目している。文部科学省の科学技術・学術政策研究所によると、2021年から2023年に発表された論文のうち、被引用数上位10%に入る自然科学論文の国別順位で日本は過去最低の13位にとどまった。1位は中国、2位が米国、韓国は9位だった。
東京新聞は、政府が財源難を理由に国立大学への運営費交付金を削減し、特定分野に資金を重点配分する「選択と集中」政策を進めた結果、良質な研究が生まれにくくなったと批判した。
これに関し坂口教授も6日の受賞記者会見で「基礎科学への支援が不十分だ」と述べ、「国内総生産(GDP)が同程度のドイツと比べても、免疫学分野の研究資金は日本の方が3分の1程度だ」と指摘した。
日経は、AIや量子技術、生命科学などに関心が集中している現状に触れ、「日本の科学力を再び高めるには、現状の見直しと政策の再検討が必要だ」と提言している。
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