「希土類輸出統制」の脅しに米が融和姿勢
中国、「リチウム・人工ダイヤモンドも輸出規制へ」

中国による希土類輸出統制への対抗措置として「100%の追加関税」を掲げ、貿易戦争の火ぶたを切ったものの、ドナルド・トランプ米大統領は一転して融和的な姿勢を示した。米国が歩み寄りの姿勢を見せる一方、「資源大国」中国は今月末に韓国・慶州(キョンジュ)で開かれるアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議を前に、リチウムイオン電池や人工ダイヤモンドといった戦略物資の輸出規制に踏み切るなど攻勢を一段と強めている。いずれの品目もスマートフォンや半導体チップ製造に不可欠な素材であり、米国のみならず世界の産業界にも波紋が広がる見通しだ。
トランプ大統領は12日(現地時間)、SNS「トゥルース・ソーシャル」に「中国よ、心配するな。すべてうまくいく。尊敬する習近平中国国家主席が一時的に誤りを犯しただけだ」と投稿したうえで、「彼も自国が不況に陥ることは望んでおらず、私も同じだ」と述べ、「米国は中国を傷つけようとしているのではなく、助けようとしている」と語った。
ガザ地区での和平協定推進のためイスラエルを訪問中の専用機内でも、記者団に対し「(習主席は)非常に強く、賢明な人物だ」と持ち上げた。来月1日から中国に100%の追加関税を課すのかとの問いには「現時点ではその予定だ」と答える一方で、「とても遠い未来のことのように感じる」と述べ、中国との交渉余地を残した。
トランプ大統領が対中強硬姿勢を緩めた背景には、10日に米金融市場が大きく動揺するなど、貿易戦争による副作用への懸念が強まったことがあるとみられる。さらに、中国が本格的に希土類の輸出統制を実施した場合、米国経済への打撃が避けられない点も判断に影響したとされる。
希土類は戦闘機や自動車、電子機器などの製造に不可欠な戦略資源であり、中国が世界生産の約70%、精製・加工の80%以上を占めている。米国も供給網の多くを中国に依存しているのが現状だ。英紙『ファイナンシャル・タイムズ(FT)』は、ある元米政府高官の発言として、今回の軌道修正を「メガ・タコ(MEGA TACO)」と表現。「タコ」は「トランプはいつも逃げ腰だ」という新語で、同紙は「習主席はトランプ氏の『タコ』ぶりを正確に見抜いている」と論じた。
劣勢を挽回しようと、米国は希土類の代替供給網の確保に奔走している。外貨危機に直面しているアルゼンチンと200億ドル(約3兆500億円)の通貨スワップ協定を結ぶなど支援を強化しており、これも資源調達戦略の一環とみられる。
一方の中国は、さらに新たな一手で圧力を強めている。香港紙『明報』によると、中国は来月8日からリチウムイオン電池と人工ダイヤモンドの輸出規制に踏み切る見通しだ。リチウムイオン電池はスマートフォンやノートパソコン、電気自動車、電動工具、医療機器など幅広く利用される必須の電源であり、人工ダイヤモンドは天然鉱物と同等の特性を持ちながら低コストで、先端半導体チップの製造や超硬素材の研磨、レーザー用光学機器などに用いられる。
『ブルームバーグ』は、リチウムイオン電池の輸出統制が現実化すれば、米国の供給網に深刻な影響を及ぼす可能性があると指摘する。実際、今年1〜7月に米国が輸入したリチウムイオン電池のうち、中国製が65%を占めた。米地質調査所によれば、2020〜2023年に米国が消費した人工ダイヤモンド(粉末)の77%も中国から供給されている。
中国が強硬路線を取れる背景には、輸出先の多角化による好調な貿易実績がある。中国海関総署によると、先月の輸出額は3,285億7,000万ドル(約50兆円)で、前年同月比8.3%増加した。『ロイター』が集計した市場予想(6.0%)や8月の伸び率(4.4%)を大きく上回った。米国向け輸出は前年同月比27%減少したものの、アフリカ向けは56%、東南アジア向けは約16%と急増している。
米政府も、大統領だけでなく側近らが総動員で中国への説得を試みている。J・D・ヴァンス副大統領は米『フォックス・ニュース』のインタビューで、「もし中国が攻撃的な対応を取るなら、大統領はさらに多くのカードを持っている」と述べ、「中国が理性的な道を選ぶことを望む」と強調した。
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