西側制裁対象621隻の船舶、97隻の保険履歴確認でニュージーランド捜査本格化

イラン産およびロシア産原油に対する制裁を回避して運航していた「影の艦隊」と呼ばれるタンカー数百隻が、ニュージーランドの保険会社から保険を受けていたことが明らかになった。この保険会社は、過去に北朝鮮の船舶にも保険を引き受けた実績がある。
『ロイター通信』は28日(現地時間)、ニュージーランドの金融犯罪捜査チームが16日、オークランドとクライストチャーチにある「マリタイム・ミューチュアル(MM・Maritime Mutual)」の事務所および関係者宅を捜索したと報じた。
捜査チームは、ロシアに対する制裁違反や資金洗浄防止義務違反の有無を調査している。警察は3人を対象に事情を聴取したが、現時点では刑事事件としては扱われていない。
7カ国記者団、影の艦隊の実態を追跡
ロイターによると、イギリス、ニュージーランド、マレーシア、アメリカなど7カ国の記者団が、1年以上にわたる調査報道を行った。記者団は数千件に及ぶ船舶データや保険資料、制裁リストを分析し、マリタイム・ミューチュアルがイラン産およびロシア産原油の運搬船に大規模な保険を提供していた事実を確認した。
2018年以降、マリタイム・ミューチュアルの保険に加入したタンカーは231隻に上る。このうち130隻は、制裁下でもイラン産およびロシア産原油を運搬していた。運搬された原油の価値は、イラン産が182億ドル(約2兆8,000億円)、ロシア産が167億ドル(約2兆6,000億円)に達する。
マリタイム・ミューチュアルは「国際制裁や関連法規をすべて遵守している」と述べ、「今後、ウィンドワード(Windward)やロイズリスト(Lloyd’s List)が『影の艦隊』として分類する船舶には保険を提供しない」と釈明した。しかし、ロイター通信は「同社が保険加入船舶の名簿を公開していないため、この主張の真偽を確認することは困難だ」と指摘している。
制裁対象船舶621隻中97隻、MMの保険履歴が確認される
ロイターは、西側が制裁対象とした621隻の「影の艦隊」船舶のうち、97隻がマリタイム・ミューチュアルの保険に加入していたと伝えた。このうち48隻は、制裁発効時にも保険が維持されていたという。マリタイム・ミューチュアルは「2022年以降、制裁対象船舶92隻の保険を取り消した」と説明したものの、名簿の公開は拒否している。
制裁専門家のデイヴィッド・タネンバウム氏は、「マリタイム・ミューチュアルは、影の艦隊市場で最も大きな影響力を持つ主要な保険会社の一つだ」と評価し、「制裁回避タンカーへの保険提供における規模は圧倒的だ」と述べた。
西側再保険会社の関与が浮上
ロイターの取材によると、マリタイム・ミューチュアルはイギリスのロイズ・オブ・ロンドン、ドイツのミュンヘンリ、ハノーファーリ、イギリスのMSアムリンやアトリウムなど、主要な再保険会社から再保険を受けていた。
これらの再保険会社と仲介業者のエーオンおよびロックトンは、マリタイム・ミューチュアルのリスクを分散させつつ利益を上げていた。しかし、制裁対象船舶を間接的に保証していた場合には、彼ら自身も制裁リスクにさらされる可能性があると、ロイターは分析している。
北朝鮮船舶への保険引受実績も確認
ロイターは、日本政府が2005年にマリタイム・ミューチュアルが北朝鮮船舶に保険を付与したと指摘したと報じた。また、2006年には創業者ウィリアム・ランキン氏がニュージーランド政府に対し「現在、北朝鮮船舶に対する保険契約は存在しない」と説明した外交文書が、ウィキリークスを通じて公開されたという。これにより、マリタイム・ミューチュアルが制裁対象国の船舶と継続的に関与していた実態が明らかになった。
ニュージーランド・イギリス・アメリカによる共同捜査が本格化
ニュージーランド準備銀行と外務省は、マリタイム・ミューチュアルが制裁や資金洗浄防止規定に違反しているかどうかを調査している。ニュージーランドはオーストラリア、イギリス、アメリカ当局と連携し、捜査の範囲を拡大している。ニュージーランド外務省の報道官は「マリタイム・ミューチュアルは規制対象として調査中だ」と述べた。
専門家は、今回の捜査について「ニュージーランドが西側同盟国とともに制裁回避の構造に対する調査に乗り出したことは、新たな国際対応の兆しだ」と指摘。「保険網を通じた制裁回避の手法が具体的に明らかになった初の事例である」と分析している。















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