崩れゆくロシアの戦争遂行能力
核の恫喝が示す”焦燥”
国際安全保障の文脈で、ロシアの戦争遂行能力が限界点に近づいているという分析が急速に広がっている。チョ・ハンボム博士が明らかにしたロシア国内の実情は、表向きの強硬姿勢とは裏腹に、軍事・経済・人員のあらゆる領域で構造的な亀裂が顕在化していることを映し出す。プーチンが核兵器にまで踏み込んだ発言を繰り返すのも、戦況をひっくり返す力の誇示というより、使えるカードが尽きかけた時に見せる“焦燥のシグナル”と見るべきだとの指摘がある。
戦争初期、ロシアはウクライナを短期間で制圧できると誤算し、「一週間で終わる」とまで信じていた。しかしNATOの全面支援を受けたウクライナは徹底抗戦に踏み切り、ロシアの想定を根底から崩した。
ロシア軍はゲラシモフ参謀総長が推し進めた大隊戦術群(BTG)を全面導入したが、これは小規模紛争には柔軟でも長期戦には不向きな構造である。補給線が維持できないまま前線が拡大し、BTGは次々と崩壊。北部・東部・南部で撤退が続き、開戦初期の攻勢はほぼ失敗に終わった。その後ロシアが確保した地域は、クリミア半島とドンバス、さらに両者を結ぶ南部回廊に限定されており、当初掲げていた「ウクライナ掌握」という戦略は完全に崩壊した。

反撃側のウクライナも無傷ではない。内部対立や資源枯渇が深刻化し、2023年の大攻勢はゼレンスキー大統領とザルジニー総司令官の戦略の対立によって兵力が分散。ロシアが築いた大規模防衛線の前で作戦は頓挫した。結果として戦場は双方が疲弊し、前線は動かない“膠着戦”に陥っている。特にロシアは戦闘不能者が100万人を超えるとの推計もあり、サマーラ地域では募集ポスターに年約1,000万円の報酬が提示されるなど、兵力不足は危機的段階に達した。
戦争体力の低下は経済にも顕著に表れる。ロシア中央銀行の政策金利は17%に達し、インフレ率は10%近辺で推移。財政は限界に達している。プーチンは「増税はしない」と明言していたにもかかわらず付加価値税引き上げに踏み切り、事実上の“戦時財源確保”に追い込まれた形だ。さらに、米トランプ政権が石油・ガス制裁の第2段階を検討すると表明し、ロシア財政の約4分の1を占める収入基盤が揺らぐ可能性も浮上した。核の恫喝に依存する姿勢は、むしろ余力の消失を示す指標に近い。
戦場でもロシアの限界は鮮明である。大規模攻勢は打てず、オートバイやバギー、ドローンによる小部隊浸透が中心となり、占領を装った写真だけを残す作戦が続く。機甲戦力の不足、制空権喪失、黒海での制海権崩壊が重なり、ロシアに大攻勢を再開する余地はない。ウクライナ側も余力が枯渇しているものの、西側支援により防衛線の崩壊だけは辛うじて防いでいる。両国とも決定的な勝利が不可能な上に、互いに受け入れ難い領土条件が障害となり、和平交渉も動けない。残るシナリオは不安定な休戦と、”欧州版・朝鮮半島型分断”の定着である。
こうした状況下で、韓国の存在感が急速に高まっている。理由は単純だ。戦後最大の復興需要が生じる地域は、ロシアが占領し破壊したウクライナ東部・南部であり、欧州諸国は政治的理由からそこへ直接参入しにくい。ロシア自身には復興能力がなく、日本との協力は北方領土問題で事実上停滞している。残る現実的パートナーは韓国だけである。
ロシアはすでに北朝鮮労働者まで動員しているが、壊滅した産業地帯・都市・インフラを復旧するには、建設・管理・施工の各分野で世界トップクラスの実績を持つ韓国企業なしでは成り立たない。チョ・ハンボム博士も「むしろウクライナより、ロシア側が韓国を必要とする可能性の方が高い」と述べる。
結局のところ、ロシアは韓国抜きで戦後復興が成立せず、韓国は巨大市場を新たに取り込む機会を迎える。戦争の終わりが近づくほど、韓国が戦略的な鍵を握る理由はここにある。














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